国内メーカーの学生フォーミュラ専用ダンパー

道具を使う競技は数多くあって、テニスラケットや陸上用スパイク等がパフォーマンスに大きな影響を与えていることは言うまでもない。そんな競技に使う道具だが『憧れのプレイヤーがどのメーカーのラケットを使っているのか』『どこのシューズを履いているのか』気になったことがある人もいるだろう。更に自身もプレイヤーであれば『ガットに何を張っているのか』『スパイクのピンは何を付けているのか』が気になりだす人もいるだろう。そう考えると道具のディテールを探るのも競技を見る面白さに思えてくる。それを作っているのが日本のメーカーだと少し嬉しかったり誇らしく思うこともあるんじゃないだろうか。今回はそんな話。

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富山大学 2022年大会 photo by @125ascot

道具を使う競技の中で、最も道具の存在感が大きい競技の一つがモータースポーツだ。そして上述の通り、マシンや部品の違いに目を凝らしてワクワクする経験はSUPER GTやWEC、F1等で経験済みの人もいるだろう。もちろん学生フォーミュラでもそれは同じ。むしろそのワクワクが多く潜んでいるため、モータースポーツファンの中でも玄人向けのイベントと言えるかもしれない。

学生フォーミュラはその特殊なマシンと競技フォーマットから専用部品もいくつか販売され、それらを採用するチームが多い。タイヤ、ホイール、そしてダンパーがそうだ。専用品があるとはいえ選択肢が少ないタイヤと違ってダンパーはメーカーが多くファンを楽しませてくれる要素も多い。2022年大会のオートクロスを見ても上位10チームのうち9チームが専用ダンパーを採用していてメーカーも様々だ。

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専用ダンパーが登場する以前は自転車用を採用するチームが多く、一部の上位チームがオリジナルのダンパーを製作するくらいだった。そんな国内チームに専用ダンパーが広まり始めたのは2012年頃。当時すでに海外チームが使っていたOhlinsの専用ダンパーを採用するチームが現れたのが始まりだ。それに続く形でSachsが専用ダンパーをリリース。当時Sachsのエンジニアを招いた講習会にこれの試作品が持ち込まれたのだが、新しいアイテムを前にギラつく学生たちが印象に残っている。他にも、同じSachsでもF3やF4といった上位フォーミュラのものを採用したり、今は生産されていないがPenskeの専用ダンパーを採用するチームが現れたりと、海外メーカーのダンパーが国内チームに広まっていく。その後2016年にはRS-Rが登場、2017年にはKYBが登場(試作品を早稲田大学が採用)、2018年にはTEINが登場し、国内メーカーがだんだんと増えて今に至っている。そんな学生フォーミュラ専用ダンパーについて話を聞くため、2月10日-12日に開催された大阪オートメッセのRS-Rブースを訪問。開発担当、広報担当の方お二人に話をうかがった。

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RS-Rの専用ダンパーのリリース時期を2016年と紹介したが、開発が始まったのは2011年らしく今年で12年目。2022年大会では15チームがRS-Rの専用ダンパーを採用しており上位では千葉大学、富山大学、日本自動車大学校等がそうだ。開発にあたっては日本自動車大学校とRS-Rがタッグを組む。それまでモータースポーツの現場で付き合いのあった日本自動車大学校からのリクエストをきっかけに開発がスタートしたという。「最初は市販車用のシリンダを使ったものから始まった」「そこまで強度もいらない、軽量小型化しないといけないということから専用のものを作るようなった」とか。

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開発中はホースで別タンクを繋ぐ仕様も。
引用:https://minkara.carview.co.jp/userid/255681/blog/34069047/

その一方、「量産を想定しないとすごい値段になる」「すべての部品が試作レベルだと1セット100万円とかいっちゃう」ということから専用部品と市販車用部品を融合した現在の製品になったのだとか。一例を上げると、シャフト自体は専用部品だがシャフト径を既存製品の規格から選択することでシール等周辺部品を流用出来るようにしたとのこと。

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またメンテナンスについても「当時学生さんたちが海外メーカーを使う上で悩んでいた」「オイル漏れがあったら本国に送って、修理して戻してもらって、とお金も時間もかかる」「修理して戻ってきてもまた漏れたりしたら大変」「対して国内であればその費用と時間を抑えられる」と話す。走行の現場にもスペア部品やオイルなどを持ち込んでいるんだとか。こうしたサービスが出来るのも国内メーカーの強みだろう。

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