東海大学、攻めの造形、その先に見えた現実【学生フォーミュラ2025・空力観測 第3回】

学生フォーミュラ日本大会2025で注目した空力部品を追う連載「空力観測」の第3回は、東海大学のサイドポッドを取り上げる。前回の静岡大学(リンク:静岡大学、EVのサイドポッドは「箱」から「翼」へ【学生フォーミュラ2025・空力観測 第2回】)に続き、今回もテーマはサイドポッドだ。静岡大学がEVならではの自由度を活かし独創的なデザインを形にしたのに対し、東海大学はICVの制約の中で、冷却性能と空力性能をどう両立させるかに挑んだデザインである。

カーボンモノコックに意欲的な空力部品を載せるチームといえば、古くは上智大学、そして東海大学が筆頭に挙げられる。その東海大学が8月の合同テストに持ち込んだマシンは、まさに“らしい”一台だった。中でも目を惹いたのが今回取り上げるサイドポッド。前端から斜め下にえぐり取られたような大胆なアンダーカット形状に、上方へ開くインテーク。フロントウイングやサスペンションで生じる乱流をアンダーカットで受け止め外へ逃がし、上部の開口部からは流速の高いクリーンな気流のみをラジエータへ導いて、効率的な冷却を狙うというものだ。

東海大学、8月合同テスト時
サイドポッド周りの流れイメージ

この設計思想は、F1のRed Bull RB19に見られる“ダウンウォッシュ・コンセプト”を想起させる。RB19では、アンダーカット部で気流を下方へ導き、リヤディフューザーの効果を高める狙いがあり、上面には上向きにインテークが開けられ、ラジエータへ導風する構造だ。東海大学との違いは、ラジエータを抜けた空気の流れ先にある。RB19ではエンジンカバー内へ向かうのに対し、東海大学はラジエータファンを経てサイドポッド後方の開口から排出する。学生フォーミュラでは、サイドポッド上面に開口を設け、ラジエータを通過した空気を抜くチームもあるが、東海大学はラジエータファンの排気がリヤウイングへの流れを乱さないよう、上面を完全に閉じている。

https://www.the-race.com/formula-1/first-look-at-red-bulls-second-major-f1-2023-sidepod-upgrade/
東海大学、8月合同テスト時

空力性能に軸足を置きつつ、必要最低限の冷却性能を確保する造形は、製造品質の高さも相まって美しさがあった。しかし、学生フォーミュラに限らず、理論上の美しさがそのまま実走で通用するとは限らない。東海大学のサイドポッドは、実際に走らせてみると冷却性能が不足していたという。ラジエータへの導風を増やす方向でテストを行った東海大学は急遽、サイドポッド前面をカットして開口部を広げ、冷却を確保するという応急処置を施した。

東海大学、大会後の走行時

どの部品でも同じだが、とりわけ空力部品は解析に相応の時間とマシンパワーを要し、製造でも品質を保つためにコストと手間がかかる。それだけリソースを割いたとしても、実車で期待する性能が発揮されないことは珍しくない。ゆえに今回の東海大学の「応急処置」は決して特異ではなく、限られた時間の中で最適解を選ぶ、極めて現実的な判断だったといえる。

東海大学、大会後の走行時

東海大学のサイドポッドは、「モノにして初めてわかる」実践の価値を体現している。走らせて初めて課題が見え、走らなければ改良の糸口も掴めない。攻めた形状に挑戦したからこそ、その課題と価値がより鮮明に浮かび上がったように思う。重要なのは、試行錯誤の末に得られる「足りなかった」という発見である。その経験こそが次の進化を生む。手間を惜しまず作り上げ、実車評価の中で磨かれた今のサイドポッドこそ、間違いなく“最もカッコいい”状態にあると言えるだろう。

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