吉林大学、空力の“起点”はフロントウイング【学生フォーミュラ2025・空力観測 第4回】

 学生フォーミュラ日本大会2025で注目した空力部品を追う「空力観測」。前回は、東海大学の攻めたサイドポッドにフォーカスした(リンク:東海大学、攻めの造形、その先に見えた現実【学生フォーミュラ2025・空力観測 第3回】)。第4回は、中国・吉林大学のフロントウイングを取り上げる。国内勢とは異なり、どちらかといえば欧州勢に近い見た目とスペックのマシンを持ち込み、今年は動的審査でもその性能を発揮してきた吉林大学のICV・EV両チーム。今回は、その2台に注目し、フロントウイングの特徴を整理する。吉林大学はICVとEVの2台を出場させ、それぞれで異なるフロントウイング構成を採用している。いずれも単体でのダウンフォース最大化だけを狙ったものではなく、車両全体の気流制御を担うパーツとして設計されている点が特徴だ。

 まずICVでは、中央部をわずかに持ち上げ、フロア下へ空気を供給する形状を採用している。持ち上げ量は控えめで、フロア効果を高めすぎず、前後バランスを保つ設計だと考えられる。中央部を大きく開ければフロア効率は向上するが、フロントウイングでのダウンフォースは減少する方向だ。吉林大学はそのトレードオフを考慮し、控えめな持ち上げを選択していると思われる。また、片側2枚の「ターニングベーン」(メインプレーンの上に垂直に立つ整流板)が付いている。国内勢のフロントウイングではあまり見られないが、欧州勢では数年前から採用例がある。ターニングベーンはフロントタイヤの乱流を外側へ逃がし、サイドやリヤウイングへの乱流を抑える役割を持つ。中央部のフラップも複雑な断面形状で、サイドポッドへの気流を確保しつつ、必要なダウンフォースを生み出している。

 EVでは、左右のメインプレーン前方に「スラット」(ウイング前端にある後傾角がついたエレメント)を採用している。メインプレーン下面へ空気を導き、失速を抑制する効果がある。フロント周りは地上高の変化が大きく、走行中の姿勢変化で空力が不安定になりやすいため、安定性を補う役割を担う。ただしスラットはメインプレーンのスペースを消費するため、その効果とメインプレーンで面積を稼いだ時の効果を天秤にかける必要がある。これに対して吉林大学は、あえて複雑な構造を採用し、空力的な挑戦を行った。両仕様に共通するのは、フロントウイングが複数の役割を持つ点だ。ダウンフォースを生むだけでなく、後方の空力パーツを機能させるための“起点”として設計されている。特にリヤウイングへの整流は顕著で、学生フォーミュラにおけるリヤダウンフォース確保の難しさを反映した構成といえる。

 少し国内勢に目を移すと、今年ベストエアロ賞を獲得した上智大学も、比較的凝った作りのフロントウイングだった。特にメインプレーンには明確な意図が見える。吉林大学ICVが中央部を持ち上げたのに対し、上智大学のメインプレーン中央部は低いままで、サイドフロアの位置に合わせた部分が持ち上げられている。大きなサイドフロアは翼断面となっており、そこへ向けて導風する狙いだろう。

フロントウイングは、それ自体での性能も重要だが、車両全体の空力パッケージを機能させるための起点でもある。吉林大学のフロントウイングは、その役割を具体的に示すものであり、その形状の通り、空力性能を引き出すことの複雑さを物語っている。

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