Aichi Sky Expoの3年目、コース攻略、タイムの作り方も変化するか【学生フォーミュラ2026】
大会の前倒し開催により、例年より早く動き出した学生フォーミュラの2026年シーズン。すでにシェイクダウンや接地の報告も聞こえ始めている。Aichi Sky Expo(ASE)での開催も3年目を迎え、各チームのコース理解は次の段階へ入りつつある。これまで語られてきた「低速コーナーとバンプへの対応」から、より高い速度域でのタイムの作り方へ――。コース攻略の考え方に、わずかな変化が見え始めている。
動き出した2026年シーズン
2月28日、東海大学が前年の車体を継続使用する※Second Year Vehiclesを選択したと思われる、走行を開始したことを発表した。続いて3月13日には日本工業大学が接地(フレームとサスペンションの完成)を報告。同日には工学院大学がシェイクダウンを発表している。これ以外にも上位チームは着々と準備を進めているようだ。公開こそされていないものの、日本工業大学と同様にすでにマシンの接地を済ませているチームもいくつかあるという。関東勢は国内でも比較的早いタイミングで合同テストを予定しており、それに照準を合わせて準備を進めている印象だ。いずれにせよ、1か月前倒しとなった学生フォーミュラ日本大会2026に向け、例年より早いスケジュールでシーズンが動き出している。
※ICVのSecond Year Vehiclesは大会開催時期が前倒しとなる今年のみの特別措置
特徴的な低速コーナーとバンピーな路面
2023年まで学生フォーミュラ日本大会は静岡県袋井市の小笠山総合運動公園(エコパ)で開催されていた。2024年からは会場を愛知県常滑市の愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo、以下ASE)へ移している。会場変更に伴いコースレイアウトも変更された。基本構成はエコパ時代を踏襲しているが、コーナーはより低速側へ寄せられている。特に象徴的なのがコース終盤のMコーナーだ。小さく狭いコーナーが連続するセクションで、最大舵角でも曲がるのに苦労するほどタイトな区間となっている。ASEのレイアウトを象徴するセクションと言えるだろう。さらに路面状況もエコパとは大きく異なる。エコパが比較的フラットな路面だったのに対し、ASEでは動的エリアの長手方向に排水溝が走り、その間にかまぼこ状の路面が並ぶ構造となっている。このため路面は非常にバンピーだ。旋回姿勢を保ったまま排水溝を通過し、その勢いでマシンがジャンプするポイントも存在する。
会場変更直後、各チームはこの「低速コーナー」と「バンプ」の2つをキーワードにマシン開発を進めていた印象がある。より曲がる方向のセットアップを追求すると同時に、バンプ通過時でもフロントウイングやサイドフロアが路面と干渉しないよう設計・製作を進めていた。2年目となった2025年大会でも、その傾向は変わらなかった。上位チームの中では回頭性を高めるためにPOU(Pushrod on Upright)を採用する例が多く見られたほか、フロントウイングの高さを上げる策や、翼端板の前端を持ち上げた形状を採用するなど、路面干渉を回避する工夫も見られた。コース攻略の課題は2025年も基本的に同じだった印象である。


高速域のパフォーマンス
しかし、コースへの理解が深まるにつれ、キーポイントは少しずつ変わりつつある。チーム関係者との会話の中で聞こえてきたのは、より長くアクセルを踏めるコーナー出口姿勢や、高速コーナーでのスピードを重視する考え方だ。この視点は実はエコパ時代にも見られた。エコパではホームストレート前のコーナーの脱出速度と旋回姿勢が、速いマシンを見極める重要なポイントだった。4輪ドリフトのような姿勢を保ったままホームストレートへ飛び出してくるマシンは、エコパ名物とも言える光景だった。エコパでこれが成立していた理由は、ストレート前のコーナーとその手前のコーナーの距離が短く、2つのコーナーをひと繋ぎの旋回として処理できたためだ。
しかしASEではストレート前のコーナー形状が変わり、コーナー間の距離も広がった。その結果、いったん旋回を切り離し、姿勢を整えてからブレーキングし、改めて旋回してストレートへ出ていくレイアウトとなった。とはいえコーナーのつなぎ区間で十分に加速できるわけではない。ブレーキング時に荷重移動によって前輪の接地荷重を十分に高められないと前輪の横力を引き出しにくくなり、ノーズが入りづらくなる。その結果、向きを変えきれないままストレートへ出てくるマシンも多く見受けられた。


インベタか、大外回りか
コース後半に配置された高速コーナー、通称「右右」も同様に注目されるポイントだ。手前の11コーナー立ち上がりから右へ長く曲がり続ける、エコパ時代から続く名物セクションである。ただしASEでは入口のRがきつくなり、ライン取りも変わった印象がある。エコパでは右右手前のV字コーナーで2つのApexを取るようなラインを使い、車速を乗せて右右へ向かう走り方が一般的だった。ASEでは入口のRがきつくなったことで、11コーナーの立ち上がり速度よりも、右右の入口に対してアウト側へ振るラインが重要になった印象だ。ただしここでもASE特有の路面が難しさを加える。右右の入口には排水溝が横切っており、インに寄せて進入すると斜めに跨ぐ形になる。その際、タイヤの接地荷重が瞬間的に変動し、横方向の荷重バランスが乱れる。その結果マシンは横方向に跳ねる。着地はドライバーの修正操作に委ねられる部分も大きい。外側ラインを使い排水溝に対して直交する姿勢で進入する方法も考えられるが、右右の入口は逆バンク形状であり外へ流されるリスクもある。リターンに対してリスクの大きいアプローチと言えるだろう。


早くマシンを落ち着かせたい
こうしたポイントでタイムゲインを狙うためには、バンプ通過中でもタイヤが路面を追従できる状態を保つこと、さらにジャンプ後にどれだけ早くマシンを安定させられるかが重要になる。上位チームの中には昨年すでにそこに着目しており、マシンの基本的な方向性は曲がる特性を維持しつつ、スタビリティを高める対策も取り入れていたところもいた。また、あるチームのエンジニアは「エアロ感度も高いのでは」と指摘する。右右のような高速コーナーはもちろん、ダブルヘアピンや11コーナーといった強いブレーキングからのターンインでもフロントウイングの効果を期待したいところ。ASEはタイムに対するエアロの感度が高いコースなのかもしれない。


ドライバーに求められるもの
こうした方向へマシンが変われば、ドライバーの役割も大きくなる。安定方向へセットアップを振れば我慢を強いられるコーナーも出てくる。特にMコーナーのような小さなコーナーでは、ただ待つしかない場面も出てくるだろう。またストレート前のコーナーはブレーキングがシビアになってくるかもしれない。右右では、逆バンクの中でアウト側へマシンを振る必要があり、心理的な難しさがある。ブレーキングポイントの見極めと、飛び込む勇気。ドライバーの判断力もタイムを左右する重要な要素となるだろう。
ASE3年目、コース攻略は次
コースへの習熟度が高まったASEの3年目。これまでは、飛んできた球を打ち返すようにコースへ対応してきた段階だったが、これからはどこへ打ち分けるか、どれだけ遠くへ飛ばすかを競うフェーズに入る可能性がある。そんな戦い方へと変わるかもしれない2026年大会。まずはシェイクダウンするマシンから、各チームの狙いを読み取っていきたい。

