やっぱり京工繊は強かった、混戦をくぐり抜けたチームとトップ6【学生フォーミュラ日本大会2024】
Photo by 遠藤樹弥
9月12日15時半にスタートしたオートクロスは各チーム早めの出走を狙って長蛇の列ができ、この待機列が今年のオートクロスをさらに混戦に導く要素になった。暫定結果(ペナルティ未考慮)のトップ6は京都工芸繊維大学、東京農工大学、名古屋大学EV、大阪大学、日本大学理工学部、名城大学の6チーム。この6チームうち京工繊、阪大、農工、の3チームは午前中にセカンドドライバーを走らせて、午後にエースを乗せる戦略を取った。名大、日大理工、名城はエースだけの一本勝負に出て、それぞれ戦略が分かれる結果となった。※公式リザルトでは名古屋大学EVがパイロンタッチによるペナルティでファイナル6から落ちている。
6チームのうち午後のオートクロスで最初にタイムを残したのは名古屋大学EV。少し車検やオートクロスまで動的競技で苦労をしていたが、ここは狙ったタイミングでマシンを送り出せた印象。スタート直後、制御系のトラブルにより駆動が得られずあわやストップかと思われたが、なんとか駆動が戻って1周目のアタックを開始。事前のエコパテストでは入口、出口ともに乗りにくさを感じる動きをしていたが、大会に向けてしっかりと仕上げて来た印象でスタビリティが上がっていた。スタビリティが上がっても曲がりにくくなったわけではなく、Mコーナーではリアが上手く回り込む動きを作れていて速さが増していた。エースドライバーは「実はエコパテストが終わったあとにOBからLINEが入って、的確で優しい助言をもらえた」「それを試したら一気に良くなった」「後はウイングがついて、車検対応をする中でリアの重量が増えて安定方向にいったのもある」と話す。見るからに速いマシンに名大の2周目に注目するが、アタック中にスタート時と同じトラブルが発生。スローダウンがする瞬間があった。「スタート時と2周目のトラブルは同じで、スロットルを開けても制限がかかってしまう状況だった」とのこと。ここでタイムを失うも66秒台を出してオートクロスを終える。ドライバーからは悔しさが溢れていて、トラブルがなければ・・・とも思うがその真価はエンデュランスに期待したい。
名古屋と同様にエースドライバーで一発勝負をしに来た日本大学理工学部。トップ6のうち5チームが10インチタイヤを履く中、日大理工は13インチタイヤ履いている。一発のアタックを考えると発動の速さという点でオートクロスでは不利な状況だったが、モータースポーツキャリアのあるエースドライバーは1周目からプッシュして69秒台をマークする。2周目でもさらにプッシュして68秒台に更新してみせた。エースドライバーは「コースに関してはぶっつけ本番になったのですごく緊張していた」「マシンの状態も、結構修正箇所が多かったがいままで一番良い状態だった」「修正を頑張ってくれたチームに本当に感謝したい」「コースも初で、マシンもわかない状態で走ったのでライバルに対してどうか、というよりも自分との戦いだった」「上手く行ってよかった、ほっとしている」と興奮気味に話す。チームも初のファイナル6出場の可能性にテンションが上がっている様子だ。エンデュランスに向けては「コース後半ではラフな運転していたので、もう少しやり様があった」「マシンはタイム出る状態にあってぱっと向きが変わるようになっているが、悪く言えばリアが出やすい状態でタイヤにも優しくないのでセットは少し見直したい」とのこと。
同じくエースのみでオートクロスを戦いに来たのが名城。正直、名城はエコパテストの時点から大会にくるまで上位に食い込む雰囲気を感じない状況だった。マシンの出来や、チームのオペレーションで苦労していたのだ。オートクロスに出てきたマシンもハンチングが多く、エンジンを適合しきれていない状況が伺えた。しかし暫定6番手で上位に食い込んで見せた。これに貢献したのは紛れもなくエースドライバー。モータースポーツキャリアのあるドライバーで、現場ではチーム引っ張るリーダー的ポジションでもある。そんな彼の速さを生かして、一発の爆発力でチームを押し上げてきた。「セカンドドライバーとの差がなかなか埋められなかった」「ここ数年僕(エースドライバー)1本でいっていたので、いつも通りという感じだった」とのこと。持ち込んだマシンは「ミッドの粘りはないけど、初期(応答)を良くして初期で向けを変える方向性で持ち込んだ」「実際走ってみると思ったよりもリアがなかった」「リアのスタビリティがないところで、カントの影響も合わさって流れ出すと止まらないところもあった」このあたりはライバル同様に回り込むようになっているようだ。「トップとは差があるので、まずは完走出来るようにしたい」「あと、同じランキングのところがタイム的に接近しているので、そこのライバルに負けないようにしたい」と混戦の中で存在感を示せるかに注目したい。
チームとして良い雰囲気が続いている大阪大学は定番の戦略でエースドライバーを午後に投入。阪大としては、午前中にセカンドドライバーが競争力のあるタイムを残していることでエースドライバーを思いっきり走らせることが出来たようだ。結果的にこの午前中に出したセカンドドライバーのタイムが阪大を救うことになる。エースドライバーは走り出しからペース良く走り始め、2周目には運転に修正を加えてさらにプッシュするが残念ながらパイロンタッチ1本。エースドライバーのタイムではファイナル6に残れない可能性が高い。結果として、午前のセカンドドライバーのタイムで望みを繋ぐことになりそうだ。エースドライバーは「1周目は路面見ながらもプッシュしてしまって中途半端な走りになってしまった」「2周目ではバンプの位置やラインを変えてアタックして、上手く抜けられた」「ただ2周目の後半リアタイヤの内圧が上がってしまっていたので、1周目もう少し抑えていたら後半の内圧上昇も抑えられていたかもしれない」「そうやって攻めた結果なのでパイロンタッチはそこまで気にしていない」という。マシンについては「もう一人のドライバーとセットについてはたくさん議論をしたが、オートクロスは各ドライバーに合わせて全く異なるセットで走った」「基本的にセカンドドライバーのセットのほうがリアは軽いが、自分のセットもリアは軽め」「エンデュランスではセカンドに合わせたセットでいく」とのこと。
同様にセカンドドライバーが午前に走りきっちりタイムを残していた農工大だが、午前のオートクロスのフィードバックでオーバーステアがひどいことがわかっていたという。ペースの速いエースドライバーが乗れば、進入でのフロント荷重が増えることは間違いなく、何かしら手を打たなくてはいけない状況だったとか。大きく変化を与えないセッティング変更を考えていたが、最終的にはライバルチームからバネを借りて変更することに。午前中緑色だったフロントスプリングが午後には黒色に変わっていた。エースドライバーを乗せてコースインした農工大、彼らしく1周目から勢い良くスタートする。4コーナー、5コーナー、シケイン、スプーンとペース良く抜けていくか、逆Sの1個目進入でオーバーシュート。スピンするも、そのままターンをしてコースに戻ってくる。2周目をまとめられるか注目が集まる中、スタートからプッシュしていく。1周目で回ってしまった逆Sはドライビングを修正するも、その後のコーナーでパイロンタッチ。暫定1位の京工繊と同じく65秒台を出してきた。「セットを変えていったがそれでも進入のオーバーはきつかった、足りなかった」「あとはプッシュアンダーがひどかった」「進入ではリアが安定しなくて回るのに、そこからトラクションをかけていくと逆方向に進んでいく」「難しかった」と悔しそうに語る。昨年マシントラブルによりアタック出来ていないことを考えると、生タイムで2番手タイム。しっかり速さを占めたとしてはチームも嬉しいところだろう。
最後に、京工繊だ。おそらく今年のオートクロスでプラン通りにオペレーションを遂行出来たのは京工繊だけだったかもしれない。比較的早めにマシンを待機列に並べたチーム、途中早すぎたと思ったのか後ろに並び直すか迷うシーンも見られたが結果的に最初に並んだ順番で出走。待機列でのエースドライバーだが、いつもより若干緊張感がある印象で、眉間にしわを寄せる場面が多く見られた。そんなドライバーも予定通りにコースイン。いつもより少し速いペースでウォームアップをして1周目を66秒台で走り、会場を湧かせる。2周目、見た目では1周目よりも走りが丁寧になった印象で低速コーナーではしっかり待っていたようだが、タイムは65秒台でさらにトップタイムを更新。国内最速ドライバーの貫禄を見せた。「コースの第一印象としては傾斜の影響が想像していたよりも大きかった」「路面のミューは想像していたよりも高くなく泉大津のいい状態と同じくらいだった」「オートクロスで走ったタイミングではダスティではなかったがミュー感が低かった」とエースドライバーはコンディションの的確なコメント。また大会に向けて大きく変えたセットについて「フロントが柔らかいセットだとスラロームや切り返しがきつくて、(固める方向に)戻してきた」「ただちょっとやり過ぎ、硬すぎる感じもするのでエンデュランスに向けて調整する可能性もある」とのこと。オートクロス1位について「嬉しいですね」とコメントするエースドライバーはテンション高く大喜びするでもなく、逆にタイムに無関心なこともなく、自分の仕事をやりきったという達成感に溢れていた。
当初有力候補として見ていた千葉大学、同志社大学はスピンやパイロンタッチによってエースドライバーのアタックが不発に終わる。また岐阜大学、名古屋工業大学、日本自動車大学校、神戸大学はドライバー2人を午後に残していたり、待機列に並ぶタイミングが遅かったり、コースクローズまでにエースドライバーの出走が間に合わず本命タイムで戦うこと出来ず上位から漏れてしまう。そして速さが期待された工学院大学、国士舘大学は午後のオートクロスまでに車検を全てクリアすることが出来ず出走することが出来なかった。こうした出来事によりオートクロスは当初想像もしていないようなランキングになった。