「本当に完走したとき、感謝と喜びといろいろ溢れちゃって」東北大学が悲願の完走【学生フォーミュラ日本大会2024】

今年、チーム発足から13年という期間をかけて悲願のエンデュランス完走を果たした東北大学。技術的な深堀と自由なものづくりが学生フォーミュラの大きな魅力の一つではあるが、こうした東北大学のように先輩から後輩へと思いをつなげて目標を達成するというのも、活動できる期間が決められた学生ならではの出来事であり、こうした瞬間に立ち会えるのも学生フォーミュラの大きな魅力である。

2011年、日本にとって東北にとって忘れられない年に東北大学学生フォーミュラチームは活動を開始する。そこから2年の準備期間を経て、学生フォーミュラ日本大会としては正式にEVクラスを開始した2013年大会には彼らにとって最初のマシンが走り出した。2017年大会ではエンデュランスこそ完走出来なかったが動的全種目に出走して調子を上げてきたが、それ以後はエンディランスへの出走が叶わず。コロナ禍の期間を挟んで2021年大会からは動的種目に出走することすら出来なくなっていた。

2017年大会:公益社団法人 自動車技術会
2017年大会:公益社団法人 自動車技術会

そんな彼らは2023年マシンからフレームの継続使用を選択した。通常、学生フォーミュラのレギュレーションでは毎年新しくフレームを作らなければならない。しかし日本大会のローカルルールではEVクラスに限り2年目のフレームを継続使用することが許されており、東北大学はこれに適用した形だ。ただ、ものづくりコンペティションと銘打った学生フォーミュラ、当然自分の手で設計、製作してそれが走る姿を見たいという学生が多くいる。そんな中にあって、フレームの継続使用は新規設計、新規製作の規模が小さくなり、新しくものを作ることが減ってしまう。それでもチームが選択したのはひとえにエンデュランスを完走するため。パーツの継続使用で浮いた新規設計製作のリソースをシステム洗練とテスト走行に分配して信頼性を高めようという狙いだ。この選択の結果、東北大学は今シーズン国内チームで最も早い2月にシェイクダウンを完了した。そこから精力的にテスト走行を重ねて、7月のもてぎテストではすでに安定して走行していて、セッティングを煮詰められる状態にあった。

2024年7月 もてぎテスト
2024年7月 もてぎテスト
2024年7月 もてぎテスト

そして、2024年大会。彼らは機械車検を一発で合格。これまでのシーズンからは考えられないほど順調に動的審査へと駒を進める。オートクロス、スキッドパッド、アクセラレーションと進んだチームは大会5日目のエンデュランスに出走する。エネルギーマネジメントと思われるがスタートしたマシンはオートクロスから想定されるよりも7秒、8秒余り落としたペースで危なげなく周回していく。ドライバー交代も確実に済ませて、残すは後半スティントの10周。途中前半スティントと同程度のタイムを出すが、それ以外は前半スティントから更にペースを落として後半スティントを周回する。18周目には同時に走るライバルにブルーフラッグが出されるが、ドライバーは落ち着いてこれを処理。このあたりで動的エリアのメンバーは積み重ねてきた時間と、完走できるかという不安と期待を抑えきれなくなっていた。不思議なことに、ものづくりという科学的な活動にも関わらず最後の最後は祈り、ドライバーとマシンに声をかけるのだ。それは会場にいるライバル、スタッフそして観客も同じ。そんな思いが届いたか、19周目にはペースを戻しファイナルラップを迎える。チェッカーフラッグが振られ、マシンが帰ってくるとメンバーは感情を爆発させる。13年をかけた20周をやり遂げたのだから当然だ。

前半を担当したドライバー、「オートクロスで初めてこのレイアウトを走って、エンデュランス自体の出走も初めてで、コースの慣れだとかフラッグ、混走だとか気になるところだらけだった」「そんな中でもバッテリーのマネジメントも上手くできて、しっかり走れた」「ブルーフラッグもピットと連絡が取れていて、問題なく抜けた」「ただ抜いた後に後ろが速くて、真後ろにいるじゃんって感じでびっくりした(笑)」と喜びのコメント。後半を担当したドライバー、「本当に完走したとき、感謝と喜びといろいろ溢れちゃって」「試走する中でまだまだやることがあったが、今年は完走いくぞっていうところまで持ってこられた」「チェッカー出るまでわからなかったが、チェッカーが見えていけると思った」とゴールの瞬間の思いを語ってくれた。

東北大学 2024年大会
東北大学 2024年大会
東北大学 2024年大会

最後に、大きな一歩を踏み出したチームに対してドライバーが思いを語る。「チームとしてまずは完走しないと始まらないだろうという思いでスタートした」「学生フォーミュラは技術を競っているところがあって、置きにいった感じが嫌になることもあった」「本当はみんなやりたいことだらけの中で我慢、我慢の完走だった」「無事目標完走出来て、報われた感じはある」「でもここがスタートライン、ここからが大変だなと思う」

EVクラス初年度から参戦を続けてきた東北大学、後からEVクラスに出場してきたチームが完走してICVと互角に戦う様子を見るときっと悔しさもあったろうと想像する。もうEVは無理だ、と思う学生や世代が出てきたっておかしくない。それでも挑戦を続けて、大きな意思を持って挑んだ2024年シーズンをしっかり戦い抜いた彼らに最大限の賛辞を贈りたい。