最後に全てを受け持つリアウイングは『アーチ形状』に【学生フォーミュラ2025・空力観測 第5回】
学生フォーミュラ日本大会2025で注目した空力部品を追う「空力観測」。前回は吉林大学のICV、EV両マシンのフロントウイングにフォーカスした。(リンク:吉林大学、空力の“起点”はフロントウイング【学生フォーミュラ2025・空力観測 第4回】)最後となる第5回は、視点を車両後方、空力の終着点、リアウイングへと移す。今大会、吉林大学を含めたいくつかの有力チームで見られた、ある共通する形状について掘り下げてみたい。それは、ウイング中央部が持ち上がり(あるいは迎角が減り)、両端が垂れ下がるような「アーチ形状(への字/逆U字形状)」のリアウイングだ。ストレートなメインプレーンを採用するチームが多い中、なぜあえてアーチ形状を採用するのか。そこには、学生フォーミュラに限らず、多くのカテゴリーで直面するリアウイングの効果を出すことの難しさが垣間見えた。


まず大前提として、多くの競技車両においてリアウイングでダウンフォースを発生させることは、フロントウイングよりもはるかに厄介である。理由は単純明快だ。フロントウイングの前方には空気を遮るものがなく、常に“綺麗な”空気を当てることができる。対してリアウイングの前方には、ノーズから続くボディがあり、サスペンションがあり、そして何よりドライバーのヘルメットやヘッドレスト、吸気システム(インテーク)といった巨大な障害物が鎮座している。


学生フォーミュラにおいてトレンドとなっているアーチ形状のリアウイングは、まさにこの問題への回答である。吉林大学のマシンを見ても分かる通り、ドライバーやインテークの真後ろにあたるウイング中央部は、強烈な乱流の影響をまともに受ける。ここで無理に迎角を大きくつけても、気流がウイング表面から剥離してしまい、ダウンフォースが出ないばかりか、ドラッグが増えるだけになってしまう。
そこで、乱流がひどい中央部の迎角を減らして空気抵抗を抑え、代わりに障害物のないウイング両脇の迎角を大きく設定する。中央でのダウンフォース減少分を、クリーンな空気が当たる両サイドの効率化で補って余りあるプラスを作る。その結果として生まれた機能美が、あのアーチ形状なのである。これは、ただでさえ稼ぐのが難しいリアのダウンフォースを、使えるスペースをすべて使ってでも確保したいという、彼らの強い意志の表れとも受け取れる。


この「車体が乱した空気といかに付き合うか」という課題は、学生フォーミュラに限った話ではない。街で見かける一般車向けのチューニングパーツ、いわゆる「GTウイング」にも類似した開発思想が流れている。市販車、特にセダンやクーペの場合、ルーフを超えた空気はリアガラスに沿って斜め下へ流れ込む「ダウンウォッシュ」となる。この時、ストレートなウイングを置くと、車体両端の水平に近い風に対しては適切でも、車体中央付近では風が斜め上から叩きつけられる形になり、剥離を起こしてしまう。
これを防ぐために開発されたのが、場所によって断面や角度を変える「3次元翼」だ。ダウンウォッシュが強い中央部を盛り上げたり、あるいは前縁を持ち上げたりして、斜めに降りてくる風に対してウイングが適切な角度で迎え入れられるよう「捻り」を加えている。あの湾曲した形状は単なるデザインではなく、ルーフやキャビンによって曲げられた空気のベクトルに合わせて、ウイング全体で効率よく仕事をさせるための必然の結果なのだ。

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フロントウイング、ノーズ、サスペンション、サイドポッド、ドライバー、インテーク、それらすべてのパーツを通過、もしくはかすめながら流れて、乱された空気を最後に引き受けるのがリアウイングだ。吉林大学をはじめとする各チームのリアウイング形状の違いは、フロントからリアに至るまでの空力設計思想の違いそのものであり、その複雑な曲面は、過酷な気流から少しでも多くのダウンフォースを絞り出そうとする設計者の執念の形なのである。

