岐阜大学、空力成立を支えるメインフープ【学生フォーミュラ2025・空力観測 番外編】

 計5回にわたって学生フォーミュラ日本大会2025で注目した空力部品を追ってきた空力観測(リンク:最後に全てを受け持つリアウイングは『アーチ形状』に【学生フォーミュラ2025・空力観測 第5回】)の番外編として、今回は視点を切り替える。テーマは空力部品そのものではない。リアウイングの働きを大きく左右するメインフープである。スーパーFJなどではロールバーと呼ばれることが多く、本来はドライバーの頭部保護を目的とした安全構造だ。一見すると「そこにあるだけ」に見えるこの部材が、実際には空力成立の前提条件を支える重要部位になっている。学生フォーミュラでは、ドライバースペースの横幅から頭上に向かって直線的に立ち上がる形状が一般的だが、岐阜大学は異なるアプローチを取る。一度車体中央側に絞り込み、そこから頭上に向かって伸ばす、いわゆる『凸型形状』である。今回は、リアウイングに好影響を与えるこの特異なメインフープに注目する。

岐阜大学、8月合同テスト
岐阜大学、8月合同テスト

 まず確認すべきは、形状を規定する学生フォーミュラのレギュレーションだ。フロントフープ(FH)とメインフープ(MH)は、視界確保および横転時の安全性確保のため包絡面で結ばれ、ヘルメット頂部との間には50mm以上のクリアランスが求められる。FHを低く設定すれば視界は改善されるが、その分MHは相対的に高くなる。また、ヘルメットが接触する可能性のある部位には規定のパッド装着(ロールバーパッド)が義務付けられている。

レギュレーションイメージ、メインフープ
千葉大学、ロールバーパッド

 ドライバースペースの寸法はテンプレートで厳密に定められている。そこから頭上に向かってフープを立ち上げる際、頂点が高くなればなるほど、パイプは垂直に近い角度となり、車体外側へと角度がついていく。結果として、リアウイングに到達する気流を阻害する方向になる。MHの頂点高さもドライバーモデルによるレギュレーション上、下げるにも限界がある。こうした制約の中で、可能な限りリアウイングの性能を引き出すために採られた1つの解が、凸型メインフープである。

 凸型形状の検討では、単純にパイプを内側へ寄せたいという狙いだけでなく、ヘルメット周辺の流れを含めたメインフープとの関係性が重要になるという。実際に凸型メインフープを採用したマシンの簡易風洞試験では、メインフープを“流れを逃がす”方向に最適化した結果、50km/h条件でリアウイングのダウンフォースが約11%向上した例が報告されている。ヘルメットとフープ(ロールバーパッド)の間に気流が回り込むと、抗力と揚力の双方が悪化する傾向も確認されており、自由度の限られた条件下で形状をどうまとめるかが空力性能を大きく左右する。

岐阜大学はヘルメットとロールバーパッドの隙間がない
工学院大学は一般的なメインフープ

 リアウイングは、車体を通過してエネルギーを失った空気を使ってダウンフォースを生み出す。その直前に位置するのがヘルメットとメインフープである。空力が成立するためには、空力が求める条件を車体側が物理的に満たしていなければならない。サスペンションに対して「この高さ、この角度で取り付けたい」と要件を出すのと同様に、ボディ側にも「ここをこうしてほしい」という要求が生まれる。しかし、車体側には車体側の制約が存在する。

 その折り合いをどうつけるか。ここに、ものづくりの現実が凝縮されている。

 メインフープは、その象徴的な例である。空力設計者が理想の流れを描くだけでは性能は得られない。メインフープが担う安全要件を正しく理解し、その制約下で気流を守るアイデアを持てるかどうかが、最終的な結果を大きく左右する。“自分の領域だけを考える”姿勢では届かない。領域をまたいだ条件理解こそが、空力性能を最大化するための前提条件になる。