観戦するならオートクロス、1年をかけた渾身の1周【学生フォーミュラ日本大会2024】

9月9日(月)から14日(土)に愛知県常滑市のAichi Sky Expoで開催される学生フォーミュラ日本大会2024。大会の見どころは山ほどあるが、技術や競技を深く知っているコアなモータースポーツファンほど12日(木)のオートクロスを楽しむことが出来るだろう。オートクロスは、SUPER FORMULAやSUPER GTの予選を思わせるタイムアタックの競技だ。1周のタイムアタックというシンプルな競技だが、その1周に挑むまでにチームは複雑な競技フォーマットや条件を理解し、準備を進める必要がある。この背景を理解すると、チームが1周にかける思いが見えてくる。今回はオートクロスという競技を紹介する。

2024年大会審査スケジュール
2023年大会オートクロス 京都工芸繊維大学
2023年大会オートクロス 名古屋大学

競技フォーマット

まずは競技フォーマットについて。オートクロスは約800mのコースを1周するタイムで競う。各チーム2名のドライバーが出走可能で、ドライバー1名につき2周のチャンスが与えられる。この2周は連続ではなく、1周ごとに停止状態からスタートしてタイム計測を行う方式だ。チームのベストタイムで順位が決まり、オートクロスでタイムを残すことがエンデュランスに出走するための条件の一つとなる。走行枠は午前と午後それぞれ90分あり、この時間内で出走順やタイミングは自由だ。

初見のコースを走る

学生フォーミュラにはコース上でのプラクティスセッションがない。SUPER FORMULAやSUPER GTではフリー走行で当日のコンディションやマシンの状態を確認し、予選に臨むことができるが、学生フォーミュラではそうはいかない。学生フォーミュラのドライバーは、コースに出て初めて当日の路面コンディションやパイロンの位置、マシンの状態を把握する。これら多くの情報を処理しながら1周目を走り、2周目のアタックにフィードバックをかける。最近ではシミュレーターを使った練習や、大会会場とは別の場所で本番を想定したテストを行うチームも増えている。ただ、事前情報が多いほど、予想外の状況に混乱し、タイムを出せない可能性もある。そして何より、今年の大会は新会場・新コースだ。まだ誰もAichi Sky Expoの路面や新コース、マシンの正解を知らない。初見のコースに対してどのようにアプローチするかが注目される。

大会会場 Aichi Sky Expo
走行前にはコースウォークが設けられる

タイヤを発動させる

SUPER FORMULAやSUPER GTの場合、アウトラップ、ウォームアップラップ、アタックラップとタイム計測までにタイヤを温める時間があるが、学生フォーミュラのオートクロスではそれがない。コールド状態のタイヤでスタートし、1周目と2周目の間に他のチームが出走するため、1~2分の待機時間が発生する。そのため、タイヤを発動させるのが難しく、十分なグリップを得ることが極めて困難な競技だ。上位チームは、1周目のタイムを無視し、完全にウォームアップに使う戦略を取ることもある。過去には、1周目であえてパイロンと距離をとり、旋回する時間を増やしてタイヤに負荷を与えるドライバーもいた。しかし、今シーズンあるチームからは「オートクロス用に内圧を調整すると、リアが最後まで持たない」という声も聞こえている。短時間でタイヤを発動させるために内圧を上げると、コース後半でリアが熱ダレを起こし、グリップを失うという。コーナーが増え、旋回時間が長くなった新しいコースに対し、エンジニアがどのような内圧設定をするかが注目される。

出走タイミングと戦略

オートクロスは午前・午後どちらの走行枠でも走行可能だが、路面温度が上がり、路面が綺麗になる午後のほうがタイムが出やすい。そのため、午後に走るチームが増え、待機列ができる。上位チームは狙ったタイミングで出走できるよう、待機時間を計算してマシンを送り出す。「このコース、マーシャルだと1台さばくのに〇〇分かかる。現状〇〇台待機しているから今並ぶと出走は〇〇分後だ」といった感じだ。さらに、考慮すべき要素が「ファーストドライバー優先」のルールだ。各チーム2名のドライバーが出走できるが、1人目のドライバーを走らせるチームが優先される。ある程度時間を読んで並んでいても、1人目のドライバーを走らせるチームが来ると、先に出走させなければならない。さらに、オイル漏れやストップ車両など不測の事態で出走が遅れる可能性もある。待てば路面が綺麗になり、タイムが出しやすくなるが、時間切れでエースドライバーがアタックできずに終わるリスクもある。オートクロスまでの成績とライバルの動向を見ながら、どこで手を打つか、チームの戦略が分かれるだろう。

2023年大会オートクロス 待機列
待機列では炎天下にさらされる
走行台数が増えるとラバーが乗る

2024年大会オートクロスの動向

上位チームは午前のオートクロスに1人目のドライバーを出走させ、本番コースとマシンの状態を確認するだろう。このドライバーのフィードバックを得て、マシンを調整する。午後のオートクロスまでにスキッドパッドとアクセラレーションの時間があるため、そこでマシンの状態を確認し、フィードバックをかける。午後のオートクロスにはエースドライバーを乗せて本命のアタックを行う。これがスタンダードな流れになるだろう。1人目のドライバー、スキッドパッドとアクセラレーションのドライバー、エンジニア、チーム全体がエースドライバーのアタックに賭けることになる。エースドライバーを出走させるタイミングは、新コースに対してどれくらいプッシュすればいいのか、どのチームもわからない。知らないコースでの一発勝負になる以上、上位チームの睨み合いが続くだろう。

2024年 岐阜大学
2024年 神戸大学
2024年 名古屋工業大学

合同テストの様子を見る限り、オートクロスで6位以内に入る可能性を持つチームは、京都工芸繊維大学、大阪大学、神戸大学、同志社大学、名古屋大学、名古屋工業大学、岐阜大学、工学院大学、千葉大学、国士舘大学、日本自動車大学校、東京農工大学だ。これらの12チームがトップから2秒以内にひしめき、パイロンタッチ1回(2秒加算ペナルティ)でこの競争から脱落する可能性がある。この大混戦は、新コースと相まって大会をさらにエキサイティングなものにするだろう。

2024年 国士舘大学
2024年 東京農工大学
2024年 同志社大学