ドライバーQ&A

学生フォーミュラには設計に関するドキュメントやプレゼンテーション等による『静的審査』と実際に車両を走らせる『動的審査』があり、この動的審査ではドライバーも各チームの学生が務める。ドライバーを担当する学生たちのモータースポーツキャリアに制限は無く、レーシングカート経験者(全日本クラスや世界格式レース出場者)はもちろん、現役F4ドライバーやSRS-F(鈴鹿サーキットレーシングスクール)出身者がいた事もある。これによってドライバーの差が得点(タイム)に大きな影響を与えているのが実情で、2019年大会動的審査オートクロス1位、2位のドライバーも幼少期からバイクレース、カートレースを経験してきた学生だ。そんなモータースポーツのキャリアを持った名工、横国のメインドライバーと、カート経験者の名城メインドライバーの3名にいくつか質問をしてみた。

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Q初めて学生フォーミュラに乗った時の印象は?

『加速するけど曲がらないし、止まらない』

『転舵してからワンテンポ遅れてリア巻き込むし、旋回中パーシャルにするとアンダーステアが出る』

『ブレーキの信頼性がなくて怖い、シャシー剛性が無い』

Q学生フォーミュラの運転で苦労したところは?

『マシン幅に対してコース幅が狭くラインの自由度が少ない』

『タイヤにはとっても苦労する。オートクロスでタイヤの発動のバランスをとること。意識しないとフロントが発動しない』

『操舵の仕方、気を付けないとすぐ傷む』

『パイロンコースのライン取り、パイロンとパイロンの間の使い方』

Qドラポジでこだわる部分は?

『腕。伸び切らないか、ある程度角度が付いているか』

『ロックtoロックの量、大きすぎるとステアリングからの情報が薄い』

『低く座ることとステアリング高さ』

『カート時代からの好みで真っ直ぐ足を伸ばして足首だけでペダル操作をする』

『旋回Gで体が動かないこと』

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Qこれまで乗ってみて自分なり学生フォーミュラの速さに重要なことは?

『初期の応答が良いこと、最終コーナー手前の短いスラローム(での切り返しの応答が良いこと)』

『エアロの効かせられる姿勢変化小さいこと』

『素早くハンドルが切れること(フロントの応答が良く、リアも止まる)』

『軽く小さいこと、荷重移動がしやすいこと』

Q速さを追求する中で大アタリ、大ハズレしたことは?

大ハズレ

『重心を低くするためにドラポジを寝かせ過ぎた』

『ウェットでリアを安定させていったら大失敗した(曲がらない)』

大アタリ

『ステアリングからの情報(を増やす方向にした)』

『低偏平への変更は大当たりだった』

『6月のエコパで上位タイムを出せた、チームの士気をあげられた』

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カートからフォーミュラカーへの乗り替え時には操舵の違いに言及されることが多いが、ブレーキの違いが上げられたのは意外だった。車両重量の違いもあるが日本大会のコースにハードブレーキングをする箇所が少なく、車両にそこまでストッピングパワーが求められていないこと要因の一つかもしれない。

タイヤの発動については以前の記事でも記したように動的審査を左右する重要な要素で、彼らはテスト走行から発動や2周目アタックを意識した運転やセットアップをしてるようだ。「コース幅の使い方に苦労した」、言いかえればそこに着目してトライしたところはさすがサーキットで競ってきたドライバーたちという印象。大会時にはコース上のパイロンを繋ぐようにひかれた石灰の白線を踏みながら走ることになるため、彼らの通ったところには石灰の白煙が上がる。

https://note.com/embed/notes/nf9deea0d9555

興味深いのはキャリアによらず車両を速くする上で重要な要素として「操舵に対する初期応答」を上げた点。確かに合同テストで彼らのコメントを聞いても「速く旋回姿勢に入る方向」「より曲がる方向」を目指している印象だ。リアの使い方はドライバーによる好みが分かれるところか。

ここまでをみるとチームに重宝されるように思われるキャリアのある彼らだが、普通の学生が主体のチームでドライバーをすることには苦労もあるという。
レース現場ではドライバーのコメントを主な判断材料にセッティングや車両の改善が進められるが、学生フォーミュラではそうはいかないらしく、コメントを出してもすぐに要望を聞いてもらえないこともあるとか。工学部の学生にとってはドライバーの感覚的なコメントよりもロガーデータのほうが多少馴染みあって信用出来るのかも知れない。また操作系の剛性やドライバースペースのシートサポート類の位置等もなかなか理想通りのものが出てこず、過酷な環境でのドライビングを強いれられることもあるらしい。ドラポジの明確なこだわりがある彼らだからこそ気になるところも多く、悩ましいところだろう。

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ミニフォーミュラやパイロンコースという部分だけをみれば他のモータースポーツに例が無いわけではないが、タイヤや競技フォーマットによって学生フォーミュラの動的審査は特異な競技になっている。多くの学生は一般車の参考書を片手にこの特異な競技を読み解いていく訳だが、そんな時彼らのようなキャリアのあるドライバーが大きな助けになることは間違いない。そのアドバンテージを上手く使えるチームは、ドライバーのカラーが色濃く出てくる印象で面白い。異なるキャリアを持ったドライバーが学生フォーミュラをどう読み解いて速さにつなげるかも学生フォーミュラ、動的審査の魅力といえる。