「他のドライバーとの差を埋めたくて」用意周到に掴んだドライバーズシート、京工繊・吉田は大会史上初4連覇向けてより速く【京都工芸繊維大学】
昨シーズンまで京都工芸繊維大学の速さの要であったエースドライバー・久保の卒業は、ライバルたちにとってチャンスに変わるはずだった。少しでも差が縮まると考えたからだ。しかし、その希望を砕くドライバーが登場する。今回紹介する京都工芸繊維大学・吉田創(よしだ はじめ)だ。昨年のオートクロスではデビューとは思えない走りで、久保以外のドライバーを退ける速さを見せ、担当したエンデュランス後半では落ち着いた走りでマシンを持ち帰り、チームの3連覇に貢献した。今年、大会史上初の4連覇に向けて重要なポジションを担う、ドライバーの吉田に話を聞いた。


高専から3年次編入でチームに加入した吉田は、「自分の専攻している分野で興味のある研究があって、(京都工芸繊維大学)を選んだ」という。入学して初めて学生フォーミュラを知り入部をする。「車作れる活動があると知った時は『そんなん面白いに決まってるやん』って感じで興味を持った」と入部の経緯を話す。前回紹介した日本大学理工学部の大石とは異なり、モータースポーツキャリアのない吉田は、入部直後はドライバーになるとは思っていなかったという。「最初はプレッシャーと責任のあるポジションを担うのは無理やな、と思っていた」と話す。当時は吉田の同期にカート経験者がいた事もあって、自分ではないと思っていたようだ。その後、メンバーの変化もあり徐々にドライバーへの期待が大きくなった。「活動を続ける中で、自分もやれるんじゃないかという気持ちになっていった」とのこと。そこからドライバーになるために準備を始めたという。「ドライバーセレクションの準備のためにカートで練習した」「最初から手応えがあって、カートに乗りながら運転についても考えた」とのこと。結果的には候補者の事情やカートのタイム等から吉田がサードポジションとしてドライバーに加わった。


そして大会前7月頃にオートクロスとエンデュランスを走るドライバーのセレクションが行われた。当時エースの久保は確定していたため、吉田ともう一人のドライバーでどちらを選ぶか、という状況だったという。「泉大津でのタイムを見てオートクロス、エンデュランスを走るドライバーを決めることになった」「計測2周のアタックを1セットとして各ドライバー2セット、二人で交互に走る形で行われた」「めちゃくちゃ緊張したし、自信もなかった」「終わったあとも感触は良くなかった」と振り返る。肝心のセレクションの結果だが、その場では発表されずタイムも知らされず、「走った直後はセレクションのタイムと結果もすぐに出なくて、その日の夜にLINEが来て結果を知った」という。そして結果を受けた吉田は「自分が選ばれてびっくりした」「昨年のマシンはターンインでの応答性が高い分リアがやや軽く、特に立ち上がりでのトラクションコントロールがシビアなマシンであり、どちらかというと自分の運転に合っていた」「マシンのセットアップの好みもあって、自分のほうが少し速いタイムも出せた」と語る。セレクション時のセットの好みに触れた吉田だが、実は用意周到にこの日を迎えている。「せっかくドライバーをするならフルコースを走りたいと思っていた」「テストの時は久保さん、もう一人のドライバーとのタイム差を意識しながら参加していた」「他のドライバーとの差を埋めたくてアセットコルサ(シミュレーター)でASEのコースを自作して毎日練習していた」「泉大津の前日や当日の道中はオンボード映像だけでなく、シミュレーターの録画映像を移動の車内で見ていた」「頭の中にライン取りやブレーキングポイントのイメージを焼き付けていた」と明かす。サードドライバーの走行時間はどうしても少なくなりがちだ。セットを詰めていくためにエースドライバーの走行時間が多くなる。吉田自身、プライベートテストでは最後の方に乗ることや、合同テストでは他のドライバーが優先されることもあったという。そんな中でも、虎視眈々と準備を進めた成果が実った瞬間だった。


セレクション翌日、吉田はエンデュランスドライバーとして洗礼を受ける。「(エンデュランスドライバーに)決まって翌日からいきなりエンデュランスシミュレーションを乗ることになった」「割と体力を削られて、軽い熱中症気味になった」「腕もきついし、旋回中は下半身で踏ん張る必要や、体幹を使うような要素も多くて体中筋肉痛になっていた」「腕キツいときは帰って来た時にクラッチが引けなくて、両手でやっと引けるくらいだった」「エンデュランスを走ることになったからには、こんなことで体調崩している訳にいかない、ちゃんとしないといけないと思った」と、体力が吉田の課題のようだ。エースドライバーとなると7月8月の炎天下の中で1日中マシンに乗っていることもあるほど。速度域こそ低いがこうした理由から意外にも学生フォーミュラドライバーには体力も求められる。


そうして迎えた大会、冒頭で書いた通り結果は良かった吉田のオートクロスだが、内容は悔しさに満ちたものだった。オートクロスを振り返る吉田の第一声は「オートクロスには満足していない」だ。1本目で暫定1位のタイムを出して会場を沸かせるも、2本目のスプーンでコースアウト、不発に終わってしまった。「1本目はタイヤが発動しない中でも飛ばしていった」「シケインでパイロンに触れたか動いたっぽくて、オフィシャルがチェックしにいくのが(2本目待機中に)見えた」「その時に、『あれやったな』と思って心拍数が上がった」「焦った、その焦りが2本目のコースアウトにつながったと思う」「パイロンタッチをしてしまった悔しさと、ファイナル6に入るタイムを残せていないかもと思った」と話す。「どんな顔して戻ったらええんやと思っていたけど、(メンバーから)『1位や!』って言われて困惑したしびっくりした」「チームが祝福してくれて安心したが、それ以上にミスしたこと対する悔しさが大きかった」「自分が決めたいところで決められなかった」「スプーンがトラウマになった(笑)」と話す。エンデュランスの前夜には気持ちが切り替えられたという吉田はエンデュランスの後半を担当。チームのオーダー通りの仕事を確実にこなした。「タイヤ、油温など心配はあったが、前半のドライバーがセーブしていい状態でマシンを受け取れた」「岐阜大学さんとか、農工大学さんとか、工学院さんがいいタイムを出していて、自分がアタックしたらどれくらい出るんだろうと好奇心は湧いていた」と飛ばしそうになったことも語った。


改めてコース、路面についても聞いた。「バンプの山はそこまで気にならなかったが、谷の部分ではフロントが固いということもあって突き上げが大きかった」「第1スラローム前は、一発、衝撃がドンっと入って車両の挙動が乱れたり、ポジションがずれるくらいだった」「安定した姿勢でコーナーをつなげていくことに苦労した」とバンプの印象を語る。ただコースレイアウトは吉田の好みに合っているようで「右右のまとめ方が迷うポイントだが、全体的には好きなコーナーが多い」「まだまだ余地はあると思うが、概ね(昨年のマシンは)ハマっていたと思う」「低速コーナーが多い分、フロントがクイックに応答するコンセプトは良かった」「路面のμは泉大津の砂利がきれいになってラバーが乗った午後のいい状態と同じくらい」「エンデュランスの時はしっかりラバーが乗っていて、グリップ感があった」とのこと。
最後に今シーズンの戦い方について、「このチームの過去を振り返ると、割と絶対的なエースドライバーの立ち位置の人が毎年いたと思うが、そこと同じだけの仕事とか走りが出来る自信は持ってない」「もう一人のドライバー、トラックエンジニア、エンジンエンジニアとコミュニケーションを取って、周りと一緒に頑張っていきたい」「昨年はセットの合わせるのを久保さんに任せっきりだったが、今年は自分が深く関与していかないといけない」「ICVクラス優勝のために、しっかり貢献していきたいと思う」と語った。
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