「Hoosier一択ではつまらない」タイヤ選択が戦い方の幅を広げるか

先月、何の前触れもなく「テスト用タイヤ 楽しみ!」という文言とともに、タイヤの画像がアップされた。その画像のタイヤサイズの箇所は『このサイズを見れば何用のタイヤかわかるでしょ?』と言わんばかりに黄色い線で囲われていた。サイズは16×7.5-10。このサイズは学生フォーミュラ用タイヤと合致、すぐさま投稿者と連絡を取った。これが今回の話の始まりだ。この新しい学生フォーミュラ用タイヤを仕掛けたのは関邦由(せきくによし)氏。大手タイヤメーカーでの経験もあり、ドリフトやジムカーナなどの競技用タイヤにも携わった経験のある人物だ。今回は関氏が仕掛ける『FIVEX(ファイベックス)』(リンク:公式HP)の新しい学生フォーミュラ用10インチタイヤ、そして偶然にも別のタイヤについても話を聞くことができた。

Hoosier一択ではつまらない

「2023年大会に訪れた際、ほとんどのチームがHoosierを履いていて疑問に思ったのがきっかけ」「Hoosier一色というのが納得出来なかった(笑)」と関氏は話す。関氏の言葉通り、現状、国内チームのほとんどがHoosierのバイアススリックタイヤを履いている。入手性や性能面を考慮すると、それ以外の選択肢がないというのが実情だ。この実質的ワンメイク状態を受け、関氏は国内の学生フォーミュラチームにヒアリングを実施、同時にHoosierの学生フォーミュラ用タイヤも調べたという。チーム側から発動とピークグリップに対して要望が出てきたこともあり、Hoosierよりもソフトなタイヤを目指したタイヤ作りがスタートする。製造については、今では希少になったというバイアス構造を製造できる設備を求めて中国の工場をあたった。そこに前述の通り、よりソフトなタイヤを目指して日本からゴムを調達、テスト品の製造に着手した。レーシングタイヤで度々話題に上がる製造ばらつきについても、一定量の本数を製造して検査、実力を見ていくとのこと。狙いのゴム硬度は38~40、これは学生フォーミュラのタイヤではソフトに位置するHoosier LC0よりも低く、かなり柔らかい。先に上がったテスト品は少し硬く出来上がったため、近々さらにアップデートしたテスト品が出てくるとのことだ。ただ、ソフトにすることによって発動、ピークグリップの向上は狙える一方で懸念されるのは耐久性だ。日本大会は開催時期の関係もあり、海外の学生フォーミュラ大会と比較しても極めて過酷な路面で走っている。通常、8月末から9月上旬に開催される日本大会の路面温度は晴天時で50℃から60℃近くなることもあり、この条件でエンデュランスを走り切れる耐久性が求められるのだ。これについて関氏は「今の(寒い)時期だと評価が難しいと思う」「なかなかカンボジアサーキット、海外の学生フォーミュラチームの車両を使ったテストも考えている」と話した。国内のテストに向けては、名古屋大学、名城大学、愛知工業大学の名前が上がっており今シーズンの動向に注目だ。

また、関氏はタイヤの価格についても言及する。現在、Hoosierを国内から入手すると1本4万円を超える。ジムカーナで使われるようなハイグリップラジアルタイヤよりも更に高い。学生支援価格として、値引きもされているのだが、それでも学生からすると何セットも消費できる代物ではない。「(ビジネスとしての)バランスを崩していけないと思うが、ものによっては(現状の)半額くらいを目指したい」「ピークグリップと耐久性によってバリエーションを設け、チームが選べる状況になれば理想」と語る。

SENTURYの日本導入

今回関氏を訪問した際、上記の新しい10インチタイヤとは別に低偏平の13インチタイヤも一緒に置かれていた。それがLandsail Motorsport、正式にはSENTURYというブランドで展開される学生フォーミュラ用タイヤである。Landsail Motorsportはレーシングカート、F4、MAXX Formulaシリーズなどに供給している。このLandsail Motorsportと関氏は以前より関係があり、今回SENTURYを日本導入するにあたり関氏が携わっていくという。学生フォーミュラ用タイヤについては2023年に10インチタイヤのテストを行っていて、この時10インチタイヤを履いた韓国の学生フォーミュラチームHALLA FLETA FORMULAの関係者によると、「(Landsailが持ち込んだタイヤは)ハンコックF200のソフトコンパウンドに寄せたもので、硬めの振る舞いを見せた」「路面温度が30℃程度の環境でも走行したが印象は変わらず」「ただ耐久性は高く、摩耗にも強い印象」とのこと。

Maxx Formula
引用:MAXX FORMULA RACING SERIES
HALLA FLETA FORMULA
引用:https://www.facebook.com/share/p/15uHLDfdbS/

一方、SENTURYが新たに追加した13インチタイヤはラジアル構造で、サイズも205/470R13と明確にContinentalの学生フォーミュラ用タイヤを意識した仕様になっている。以前は13インチラジアルスリックタイヤをContinentalやGoodyearなど供給していたのだが、アジア圏においてはサポート終了の流れがあり、そうした流れを汲んだのかもしれない。サイズこそContinentalのものに合わせているが、コンパウンドはソフトなものになっている。Landsail Motorsportの関係者から得たデュロメーターの値は48あたりを指していて、これは学生フォーミュラで多く使われるHoosierのR20と同程度である。サイズに違いはあるものの、このあたり韓国のチームのコメントと整合性が取れないところもあるため、早く国内での実力を確認したいところだ。

国内チームは動くか

すでにSENTURYには関東のチームから2セットのオーダーが入っているとのこと。大会で使うかは不明、まずはテストをしてみようというところだろう。こうした動きが増えるかというと、高温路面での耐久性や路面ラバーとの相性などを懸念して上位チームがタイヤ変更をする可能性は低い。一方で、ICV中段にいるチームはトップ10入りなどを狙ってソフトなタイヤに変えてくる可能性がある。オートクロスやスキッドパッドなど一発の競技での取り分とエンデュランス時のタレによるタイム落ち分を踏まえて旨味が見込めれば変えてくるだろう。何より、オートクロスやスキッドパッドで上位に来ると目立つ、これも重要なところだ。また、EVチームについても変更の可能性はある。EVマシンのエンデュランスではエネルギーマネジメントなどによって、オートクロスほどのペースを出せないのが現状だ。エンデュランスを飛ばさないのが前提と考えると、耐久性に対する懸念も小さくなってくるため、よりソフトなタイヤでも旨味を見出すことができそうだ。

各チームAichi Sky Expoでの走行データは2024年の大会時のものだけ、路面に対する最適値はまだまだ模索中だろう。実際、チームやドライバーによって『路面のμが低い』『エコパよりもグリップが高い』とコメントがばらつく状況だ。今後、タイヤも含めたASEへの適合による差が見えて来るか楽しみである。