「自分たちが持っている武器で戦える方が学生フォーミュラ楽しめるはず」【静岡工科自動車大学校】

年々EVに移行する日本の学生フォーミュラチームが増え、学生フォーミュラ日本大会2023には 19チームがエントリー、そのうち11チームがシェイクダウン完了させて大会を迎えた。さらに、エンデュランスにまで駒を進めたチームは昨年よりも増え、2024年大会に向けてはトップチームに限らず各層でEVが戦える状況になってきた印象だ。そんな流れに逆行する極めて珍しい選択をしたチームがいる。静岡工科自動車大学校学生フォーミュラチーム『SAT’S FORMULA Team』だ。2023年大会にEVでエントリーした彼らは2024年大会に向けては一転ICVを準備すると発表した。ICVからEVに変更してエントリーしたチームが、再度ICVに戻した例はおそらく日本大会で初めて。EVにチャレンジして1年でICVに戻す大きな決断をした彼らの思いを聞いた。

静岡工科自動車大学校はその名の通り静岡県静岡市にある自動車整備士、自動車エンジニアを目指す若者のための専門学校である。その授業の一つとして学生フォーミュラチームが設けられており、3年生と4年生が所属できる。学生フォーミュラチーム『SAT’S FORMULA Team』は2013年から学生フォーミュラ日本大会に参戦を始め、2023年大会で10周年を迎えるチーム。現在は3年生8名、4年生5名が所属する。初参戦時からSUZUKI製単気筒エンジンを採用していたが、2023年大会ではDENSO製のパワーユニットを採用したEVにチャレンジした。

静岡工科自動車大学校|静岡県静岡市にある自動車大学校 (kohka.ac.jp)

「チームとして10周年を迎える年に大きなチャレンジをしたかった」、そう話すのは2023年チームリーダーの岩間。「(大会に向けた)戦略的なところよりも『チャレンジしたい』という思いが強かった」「整備士を目指す自分たちにとっては(一般車の)EVが普及することも踏まえて、電気的なところの知識や技術を身につけたいという狙いもあった」とのこと。そんな狙いでEVに移行して臨んだ2023年シーズンだったが、彼らが期待したものとは大きく異なるものになってしまう。マシンが走るどころか、モーターを回すことも出来ず大会にマシンを持ち込むことは叶わなかった。「とにかくマシンを形にすることに頭が行き、モーターを回すところまで行けなかった」「ICVを大会までに準備するスケジュールはある程度わかっていたが、EVになるとわからないところ、読めないところが多かった」「大会にマシンを持ち込めず、チームとして車検を体験出来なかったことはとても残念だった」と話す。

先輩たちの姿を見て来た現3年生であり、2024年チームリーダーを務める横山は「先輩たちがEVで苦労しているのを見ていた」「他のチームは走っているのに自分たちは何をしているんだろう?と悔しかった」「電気のこと(EV)に追われて大会どころではなかった」と2023年大会を振り返る。そして冒頭に書いた通りチームは大きな決断をする。「チームで話あってICVに戻すことを決めた」「1年でEVをやめるため周囲に納得してもらうことに苦労した」「そんな中でも支援企業様からは『残念ではあるが、チームの意見を尊重する』と言ってもらえた」とのこと。この決断に岩間も「彼らの決断は正しいと思う」「整備士としての知識を付けてきた自分たちが持っている武器で戦える方が学生フォーミュラを楽しめるはず」と後輩たちの背中を押す。岩間を含む現4年生がいるのもあと3ヶ月、今は先輩たちを質問攻めにしながらマシン設計の真最中だという横山。「来年はYAMAHA製MT07搭載する」「吸排気の設計は手探り状態で苦労している」という。2024年大会について「総合22位、完走を目標に据えている」「ライバルと対等に戦えるマシンにして、来年以降も戦えるようにしていきたい」「自動車大学校としても下の方に沈んでいたくはない」と意気込みを語ってくれた。

2023年の彼らがそうであったように、EVに移行した年は『準備』に時間を費やすことになる。それで走るようになれば良いが、その翌年も状況が変わらないEVチームは少なくない。チームが4年制大学であれば準備をして在学中に走るところまで持っていくことが叶うかもしれないし、大学院に進学すればさらに2年追加され猶予が出来る。後輩からしても、先輩たちが学内にいることは心強いだろうし技術の伝承にも時間をかけられるだろう。しかし専門学校で学生フォーミュラをやっている彼らはそうはいかない。前述の通り、彼らの活動は授業の一貫であって参加出来ても2年間。マシンが走るところまで持って行ってこそという思いもあるようで、彼らからも「しっかりと大会に参加したい」という言葉が聞かれた。