「これまで乗ったマシンで一番いい!」「コーナーに入った時の感動は国士舘が大きかった」【関西カースワップ】

10月19日に大阪泉大津市の泉大津フェニックスで関西のチーム主導による合同テストが開催された。今回の目的はカースワップ、ライバルチームのドライバーを乗せてフィードバックを得るというものだ。通常コンペティションにおいてわざわざ手の内を明かすようなことはしないが、学生フォーミュラにおいてはより良いマシン作りのためにあえてライバルドライバーを乗せる。しかも総合順位を近い位置で争うチーム同士でもだ。駆け引き無く、ライバルドライバーを迎える側のチームもそこに乗り込むドライバーも真剣そのものだった。今回マシンを持ち込んだのは同志社大学、大阪大学、立命館大学、名古屋大学、岐阜大学、九州工業大学、国士舘大学の7チーム。そして、テストドライバーとして東京農工大学の岡野くん、名城大学の髙口くんが参加。さらに、ゲストとして学生フォーミュラOBでレーシングチーム無限でレースエンジニアを務め、プライベートではv.Granzのレースにも参加する兒島さんも参加した。

走行を終えたドライバーたちに話を聞くと皆口を揃えてひとつのチームを絶賛した。それが国士舘大学のマシン。15年振りに動的出場を目指して再構築されたチームの意欲作である。パイプフレームにHONDA製4気筒エンジンCBR600RRを搭載、10インチタイヤを履く。手の込んだエアロ部品を搭載して、ライバルよりも多くのダウンフォースを得るという。またイケヤフォーミュラと共同開発したLSDを搭載する。

今年の日本大会で東京農工大学の存在感を示す重要な役を担った岡野くん。今回のカースワップでも彼の速さとセットアップ能力の恩恵に預かろうと期待しているチームもいた。そんな彼が国士舘のマシンを降りた瞬間に「これまで乗ったマシンで一番いい!」「すごい曲がる!」とテンション高く発したのが印象的で、国士舘のマシンの速さを表していた。国士舘のマシンについて、「コントロール性に優れていて、リアが流れてもアクセルで立て直せる」「何よりもめちゃくちゃ曲がる、応答性は大阪大学、同志社大学に劣るが小舵角でぐいぐい曲がっていってコーナーミッドで粘る印象」「特にMコーナーみたいな小さいコーナーでの待ちの時間が短い」と総じてコーナーミッドでの限界性能の高さについて言及した。また、トラクションサイドの性能についても「「デフが強くて、立ち上がりのレスポンスが良く、ネガがない」「イニシャルが高い分リアが回る方向にセットされているが、グリップが抜けてリアが出る訳でなく、滑るところと、回転するところのぎりぎりを舐めて行くように曲がっている」と好印象のようだ。

2018年に乗って以来、6年ぶりに学生フォーミュラに乗るという兒島さん。コースインこそ丁寧に入るが、すぐに競技ペースに持ち込んでいる印象で6年のブランクを感じさせなかった。「コーナーに入った時の感動は国士舘が大きかった」と兒島さんも国士舘のマシンを絶賛する。「コーナーボトムの速さが印象的」「ブレーキリリースから放り込んでいくところのリアスタビリティが高かった」「デフが良い仕事しているのか、アクセルオンした瞬間に旋回外輪が押し出している感じがある」「破綻することなく高いスピードで旋回出来る、そこではリアウイングの効果も感じる」と概ね岡野くんと同じ印象のようだ。また、ドライビングポジションについても好印象なようで、「肩のホールドがちゃんとしている」「背中は寝ているが肩が起きていて、視線が上を向かずに正面を向ける」「重心を下げつつ、自然に前を向ける形になっていて良い」「このマシン(デフ設定)によくある学生フォーミュラ特有の操舵の軽いステアリングジオメトリーを組むと、アクセルオンと同時に急激にフロントが入って、リアも押し出して来るような、ドライバーの想定以上に巻き込むようなマシンになってしまいそうだが、国士舘はそのネガなところはなく経験者であれば問題無く運転出来るバランスにある」とのこと。兒島さんが絶賛するドライビングポジションを実現しているのがカーボンの骨組みにクッションを入れて、カバー表皮を貼ったドライバーシート。カバー表皮はBRIDEから提供されていて、レーシングカーのシートにも使用されるものだとか。言及された肩のサポート部は中に芯がある剛性感がありながら、クッションによる当たりの柔らかさがあった。

国士舘のマシンに次いで好印象なコメントが聞かれたのはやはり岐阜大学。今年のエンデュランスでファステストを出し、しかもそのペースを8周続けるという速さを見せたマシンだ。このマシンを名城大学でエースドライバーを務める髙口くんもドライブ。今年のオートクロスで少し乗りにくさのあるマシンで見ごと6位に入る速さを見せた彼は岐阜のマシンについて、「ステアが軽いのにインフォーメーションが多い」「エンデュランスでファステストを出すだけのことはあるなという感じ」「切り出し(の応答性)も良いし、コーナーミッドも粘る」「高速では切り出しのところで飛び込んでいけるし、小さいコーナーはミッドの強みも出ている」と話す。

また今年の大会のオートクロス、エンデュランス後半スティントにおいて大きな仕事を果たして大阪大学の飯田くんも岐阜大学のマシンを絶賛する。「初期応答が強く、ヨーの立ち上がりも速い」「過渡にピーキーさがある分定常がどうなるか心配されたが、定常に入ると踏ん張りもあって良かった」「リアが回りこんでくる感じで、コンパクトに曲がれる」「上手くコントロールして、丁寧に走れば速さが出る感じでよくまとまっていて良いマシン」とのこと。総じて旋回に入るところ応答が良く、若干ピーキーさはあるがコーナーに入っても粘りがあるという評価だ。さらに飯田くんは自チームのマシンと比べて「阪大のマシンは低速コーナーで圧倒的に負けていると思う」「岐阜大のマシンはMコーナーの短いつなぎ区間で姿勢作りが出来て滑らかに速い」と語ってくれた。

ライバルが低速低荷重に合わせて回り込む方向にした結果、リアが抜けやすくなってしまう傾向にある中で、ここに上げた2台はそこを上手く回避。リアのグリップを残したまま、速く曲がるマシン作りに成功している印象だった。強いデフをベースに合わせて曲がるセットを見出した国士舘大学、曲がる方向のジオメトリーとサスペンションセットに弱いデフを組み合わせた岐阜大学と傾向の異なるマシンが同様に高評価を得たのが興味深かった。Aichi Sky Expoの路面とコースレイアウトに対してはまだまだ正解が見えず、こうしてアプローチも別れている状況だ。ここからどのチームが正解を見つけて抜け出すか、楽しみである。