予想を大きく覆す2周目のアタックとコースレコード更新【学生フォーミュラ日本大会2023】
Photo by 遠藤樹弥
8月28日から6日間の日程で開催された学生フォーミュラ日本大会2023、これが静岡県エコパで開催される最後の大会で、来年からは舞台を愛知県はAichi Sky Expoに移すことになる。最後のエコパを締めくくるエンデュランス・ファイナル6に残ったのは京都工芸繊維大学、工学院大学、千葉大学、名城大学、岐阜大学、日本自動車大学校。エンデュランス中のラップタイムで見れば岐阜大学、工学院大学、そして京都工芸繊維大学が速さを見せた。この3チームの並びは8月上旬に開催されたエコパでのテストの並びそのまま。ファイナル6のコンディションもテスト時に近く、各チーム予定通りに走ったと思われたが、最後まで走行プラン変更やマシンの調整等がされたとのこと。
「スタート前はブラフで、フルプッシュさせる!とは言っていたが正直なところは64秒後半から65秒前半で行けたらいい方かなと思っていた(笑)」「ドライバーはその通り走ってくれたので良かった」「京工繊、工学院を除けばしっかり戦えたと思う」と安堵の表情を見せたのは岐阜大学のエンジニア。大会に来て、オートクロスのアタックタイミングや持ち込みセット等で少し流れを掴み損ねているように見えた岐阜大学だったが、エンデュランス前には悪い流れを断ち切り、マシンの準備も出来たよう。「オートクロスの午後セッションに向けてレーキ(車高)を変えてトラクションを得る方向に調整したが、唐突に抜けるようになってしまった」「エンデュランスに向けてはダンパーセットを変更してのぞんだ」とのこと。その調整が良い方向に働いたか、エンデュランスの前半では安定した速さを見せてくれた。それでも後半スティントはタイムの落ちが見られ、苦労した様子。「オートクロスよりも(タイヤ内圧を)下げて出したが、それでも後半タイヤがかなりきつそうだった」「OD16(外径が16インチの10インチタイヤ)を使うならもっと(マシンを)軽くしないといけないし、うちにとって4発エンジンでOD16を使うのはハードルが高いのかなと思う」と4気筒エンジンと10インチタイヤ、特に低偏平10インチタイヤの組み合わせの難しさについて言及した。
後半の落ちはタイヤ以外に、ドライバー理由の落ちもあったとのことだが、「初見のマシンでも乗りこなしてくれる(ドライバー)2人だからこそ、競技期間中でもセッティングを変更出来たし、それをちゃんと乗りこなしてくれたドライバーには本当に感謝している」と感謝を述べた。来年に向けては「どんなコースでも速いマシンを作りたい」「エコパはタイトでツイスティーなコースで(軽量コンパクトな)単気筒が有利な時代も長かった」「そういうシチュエーションで4発でも戦えるところまできた、ここまでに得られたノウハウを利用していけばオールマイティなマシン作りも可能だと思う」と、積み上げてきたことに対する自信をのぞかせた。
今シーズン、レベルの高いチームオペレーションとマシンで注目を集めた工学院大学。大会4日目はタイムアップぎりぎりを攻めたステイ戦略でオートクロス2番手を獲って見せた。この結果は彼らが学生フォーミュラの特殊な競技を掌握していたように感じさせ、エンデュランスではその印象がさらに強くなった。前半は2秒台をキープし、後半ドライバーに交代してからもタイムを1秒以内に合わせる極めて精度の高い走りを見せた。この20周を決める最も重要な要素がタイヤであったことは言うまでもない。「最後までエンデュランスに履くタイヤを、オートクロスを走った1アタック品か、スクラブしたNewかで悩んでいた」と話してくれたのはエンデュランス前半を担当したドライバー。「本当はアウトラップを稼ぎたかった」「オートクロスいったやつでいけばアウトラップから4秒台でいけたが、最後まで(後半スティントも)ペースを維持できたかはわからない」と話す。彼が言うには、彼らが使うコンパウンドはNewの状態から発動までの準備に手間がかかる印象らしく、1アタック品であればそこの手間を省いてすぐに競技ペースに持っていけるということらしい。
しかし、彼らが選択したのは軽くスクラブしたNewタイヤだった。「(スタートの)自分が最初1周捨てれば、平均タイムを維持できると思った」「スクラブで行くとアウトラップで損することはわかっていた」「1周目やっぱり厳しくて、大事に育てないといけなかった」その言葉の通り、彼はスタートから2周かけてタイヤを準備した。「最初フロント(のグリップ)は相当なくて、しっかりブレーキ残しながらじゃないと曲がれなかった」「3周目から(グリップが)来始めて、最後の2,3周がドンピシャな状態(前半スティントの)後半はこれ以上引っ張ったり、攻めたりしないでもいいかな、というところで2秒台をキープしていた」とタイヤ選択の狙いとプラン通りの走りを完遂してみせたベテランドライバーは自分の仕事、チームの仕事を100点と評価した。来年に向けた質問に対しては、「自分は卒業するため実際には後輩たちが作ることになるが」と前置きをした上で「セントレアに向けた車作りを想定すると、4発の利点を活かしていかないといけない」「細かいところでもしっかり加速して、速いレートのヨーを出しても踏んだら、ばっと止まるような車両作りをしていきたい」「パワトレの応答性もそうだし、使う回転域を考えて対応出来るようにしておいたほうがいい」と語った。
大会最終日の朝、追い込まれていた京都工芸繊維大学。大会4日目にトラブル対応に時間を要したことで、思っていたよりもポイントが稼げず、総合優勝を考えるとエンデュランスはライバルに対して6秒速く周回しなければいけない想定だったという。ところが、ライバルのリタイアにより総合優勝に対しては少し余裕のあるシチュエーションになった。エースドライバーは「(自分のスティントの)半分は自由に行かせてくれ、とお願いした」という。彼の狙いは唯一、エンデュランスのレコードタイムだ。ここまでのレコードタイムは2016年にUAS Grazが後半7周目に出した60.690秒。最後のエコパ、国内勢としてこれを奪取する使命を彼が請け負うことになった。「アウトラップは温めて、2、3周目で決める予定だった」と話す通り、1周目63秒台で入る。そして2周目に60.584秒を出して会場を沸かせた。ロングラン向けに設定されたタイヤで、彼のスティントの半分あたりで1発アタックをして来るだろうと予想していたし、これまでの京都工芸繊維大学がファステストを出す流れはそうだった。その予想を大きく覆した2周目のアタックと、レコード更新。さらには、3周目も60秒台を続けたことで一瞬頭が追いつかないほどの衝撃だった。
また「4、5周目もアタックを続けてピークの先でどうなるのか見たかった」「実際は4周目でリアがずるずる来ていてペースを落とした」という彼のコメントから、京都工芸繊維大学のタイヤ内圧設定はロングラン向けではなく、レコード更新を狙ってショートラン向けの設定がされていたと想像する。それだけ、エンデュランスのレコード更新に賭けてきたのだ。ただ完璧な仕事をしたドライバーとチームだが、苦労もあったという。「今シーズンの最初は低い内圧をトライしていてセットも難しく、タイムが出ない時期もあって、苦労した」「シーズン途中からトラックエンジニアと一心一体でマシン作りをしながら大会に持ち込んで、最終的にこういう形で実ったのは本当に良かった」とシーズンを振り返り、勝利を噛み締めた。