今年こそトップ10入り、九州勢の存在感を示す!【九州工業大学】
ここ数年、トップ10入りを目指しているKIT-formula – 九州工業大学学生フォーミュラチーム (kitformula.watson.jp)は2023年大会でトップ10入りが濃厚と見られる中エンデュランスで失速、完走を果たすも総合12位で大会を終えた。今シーズン、昨年の雪辱に燃えるチームの勢いにライバル、関係者も注目している。それを明確に表したのは今年のシェイクダウン。通常学生フォーミュラのシェイクダウンではカウルやウイング等は未装着で、マシンを転がす程度で終えることが多い。これに対して九州工業大学チームは4月14日というライバルよりも早いタイミングで、しかも前後ウイングを装着した姿でシェイクダウンを行った。さらに転がす程度に留まらず、シェイクダウンしたその日に競技ペースで走行が可能なほど完成された状態だったという。今回はゴールデンウィーク3日連続のテスト走行を終えた直後の九州工業大学チームを訪問、話を聞いた。
まずは昨年の振り返りから。「昨年は駆動周りのトラブルが多く、走行距離を稼ぐことが出来ず、大会中に想定していない問題が起こった」「燃料空吸いもその一つで、エンデュランスでそれが起こって温存しながらの走行になってしまった」「エンデュランスで失速したことでトップ10を逃したことが悔しかった」と話す。また昨年のマシンはフロントウイングのみで、リアウイングは未装着での走行となった。これについて、「計画に甘さがあって、製作が遅れていた」「(計画から)遅れながら製作したが、製作方法や素材などに問題があって、強度を満たすものが作れなかった」という。昨年の状況について終始苦い表情で語るメンバーだが、一発の速さについては手応を感じているようで「サスペンションの完成度が高く、タイムへの貢献度が高かった」とも語る。そして「昨年までは車両の基本的な性能を煮詰めてきたが今年は耐久性が大きな課題になる」と話すように今シーズンは速さに加えて耐久性向上を大きなテーマに掲げてマシンを作ってきたという。
今年、チームはシェイクダウンの質を高める努力をしたという。「時間をかけてやりたいことを洗い出し、限られたリソースの中で、なるべく多くの時間を設計に割くため、2023年大会の前から2024年のプロジェクトをスタートした」「昨年のシェイクダウンは前年からの流用部品など多く、質が低かった」「今年はシェイクダウンのまま全開走行ができることを目指した」とのこと。これは昨年問題のあったエアロについても同じで、「(ウイング搭載は)昨年問題があったため、シェイクダウンから搭載することを目標に進めた」「サス等のシェイクダウンに不可欠な部品、他の班と歩調を合わせて進めるようにした」「設計に使う時間が短くなることはあったが、それは勉強や設計開始を前倒しにすると同時に変更箇所を取捨選択して製作する時間を捻出した」という。また協力を依頼する大学の工場とも連携をして製作管理を改善した。「アルミ系の部品は学内の工場にお願いしているが、昨年は設計が完了したものから成り行きで製作依頼していて工場の負荷や加工機の稼働状況に山谷が出来た」「今年は設計完了したものを一度チームで取りまとめて、工場の負荷状況やキャパを見ながら依頼した」とのこと。さらに他のチームだと専任の担当者が製作することの多いフレームについても時間を有効に使う工夫があった。「これまでは担当者がいないと進められなかったフレームについても手順を作って担当者がいなくても製作が進むようにした」「フレームを作りながら車検対応の確認ができるようにステアリングなどの部品が完成するタイミングをフレームの進行と合わせた」と、これらの工夫からわかるように九州工業大学は設計、製作に必要な時間を上手く配分することでマシンの完成度を高めて、シェイクダウンの質を高めることに成功したのだ。
今シーズンの九州工業大学チームのマシン、見た目でわかるところから細かいところまで広範囲で変更が加えられている。その中でも大きなトピックスは2つ。1つ目はエアシフターだ。ドライバーの腰辺りにシフトレバーを設けてギアチェンジをしていた昨年までのマシンではシフトチェンジが難しくオートクロス、エンデュランスともにギアを2速、もしくは3速に固定して走っていたという。「今まではシフトチェンジがしたいタイミングでもシフトチェンジすると車両姿勢が崩れるから我慢しているところがあった」とのこと。今年はエンジン横に小さな専用タンクとアクチュエータを設けて、ステアリング裏のパドルを操作することでシフトチェンジが出来るようになった。「昨年のマシンにエアシフターの部品を取り付けて、実際に走行テストをして問題点の洗い出し等を行った」「ステアリングを3Dプリンタで作っていて、パドルを含めて省スペースに収められた」「今年のコース案で解析して、旋回しながらのシフトアップする箇所があって、そういうシチュエーションでもパドルのほうが扱いやすくメリットがある」「パドルの方がかっこいいというのもある笑」と話す。パドル形状もチーム所有の3Dプリンタで試作してドライバーからのフィードバックを得ながら形状検討をしたのだとか。
2つ目のトピックはIKEYA FORMULA製学生フォーミュラ用LSDだ。今年から九州工業大学と国士舘大学に支援されるという。「以前、ドライブシャフトの支援が無くなったところでIKEYA FORMULAさんにドライブシャフトをお願いしたところから関係が始まっていて、昨年デフの問題が起きていろいろ変えていきたいところでIKEYA FORMULAさんのデフの話が入ってきた」とのこと。今回、この話題のLSDと学生フォーミュラの支援についてIKEYA FORMULAに話を聞くことが出来た。
【学生フォーミュラとIKEYA FORMULA】
「学生フォーミュラとの関係は(モータージャーナリストの)両角さんとシームレストランスミッションをやったのが最初」「若い人たちが損得関係なく、情熱を持って挑戦する姿、学生フォーミュラが好きだ!勝ちたい!という思いでやっている姿をみて協力したいと思った」と話すのはIKEYA FORMULAの池谷信二社長。昨年大会でも京都大学が搭載したトランスミッションに始まり、ここ数年では九州工業大学を始めとした多くのチームにドライブシャフトを提供している。学生たちの困り事を聞く中で支援の話が上がってきたという。このドライブシャフトだが、既製品を流用している訳ではなく完全オリジナル。しかも各チーム向けにオーダーメイドだ。学生フォーミュラOBでもあるIKEYA FORMULAの堀口翔梧さんは「各チームで出力やジョイント、ハブの形状が異なるのでそれらに合わせて作っている」「EVチームにもドライブシャフトを提供しているが、出力が大きい分強度検討はシビアになってくる」と話す。競技車両の部品も作ってきたIKEYA FORMULAだけにドライブシャフトの性能も作り込まれていて、「材質は学生フォーミュラに合わせた仕様のものを使用している」「競技車両である以上軽く作りたい、さらに(過度な入力に対して)ドライブシャフトで吸収して他のギアを守るように作っている」「FIA-F4,JAF-F4のドライブシャフトを作ったこともあり、その時のノウハウを使っている」とのこと。
そんなドライブシャフトの次に作ったのが今回の学生フォーミュラ専用のLSDだ。LSD開発を担当した眞島薫さん、「今回のLSDは国士館大学の訪問から始まっていて、国士館大学を経由して九州工業大学が手を挙げた形で支援が決まった」と、国士舘大学がLSDを模索する中で共同開発が始まったという。目指したのは上位チームが多く採用する海外製LSDと同等の性能。「今、上位チームが多く採用するLSDと同等の性能を目指して、車載状態でのイニシャルトルク調整機構も盛り込んだ」「勝つために選らんでもらえるものを作った」「さらに、走行中に遠隔でモーターを使ってイニシャルトルクが調整出来る仕様のものも作っていて、将来的にはアクティブサスのようにコーナーごとに制御して使ってくれることを期待している」という。コンベンショナルな仕様と、後者のモーターを使った調整が可能な仕様の2種類が製作され、国士舘大学チームには前者の仕様が、九州工業大学には後者の仕様が提供された。モーターを使って調整することが想定されているが、九州工業大学は第一段階として、ブレーキバランスダイアルのような仕組みでドライバーが調整できる機構を検討しているのだとか。
学生フォーミュラという競技におけるLSDの役割についても聞いた。「学生フォーミュラの車両は重心高が低い(内輪の荷重抜けが少ない)こともあって、そこまで効かせなくても良さそう」「ただ、京都工芸繊維大学はコーナーの進入脱出にメリハリがあってデフを結構効かせているように見えた」「ドライバーが乗れるのであればコース的には効かせているほうが良いかも知れない」「速さだけを求めるならデフロックが良いが限界もある。学生たちにはLSDを使ってその先にいってほしい」とのこと。高い技術力とともに国内のメーカーとして供給スピードやサポートのフットワークの軽さでメリットを出して行きたいというIKEYA FORMULAは「学生たちの情熱に答えるとともに、IKEYA FORMULAがやりたいことを盛り込みながら今後も支援を続けていきたい」との心強い言葉をいただけた。
協力: 株式会社イケヤフォーミュラ (ikeya-f.co.jp)
こうして提供された専用LSDを使った九州工業大学チームのドライバーは興奮気味にその効果を語る。「効果の大きさを感じていて、きれいに荷重を乗せてアクセルを開けていくと、真ん中に引きずられていくような感覚を得られる」「ただ走行ラインを間違えて失速気味(荷重が乗らない状態)だとすぐにプッシュっぽくなってしまう、難しい」「自分たちでテストメニューを作ってテストしている」「オープンに近い状態から、デフロックに近い状態まで調整をしたり、中間の値から細かく変更して効果を見た」「それらのフィードバックをIKEYA FORMULAと共有している」と実走行の効果は上々、開発も進んでいる印象だ。エアシフター、専用LSDに加えてフレームにはアルミ製のリアバルクヘッドが採用され、吸気もボックス形状からタコ型形状に変更されている。また昨年騒音オーバーでペナルティを科せられた排気は基本構造を変更して騒音対策と軽量化に取り組んだとのこと。耐久性向上を掲げながらも速さも貪欲に取りに来ている九州工業大学の快走に期待したい。