「堅実に行くほうがチームとして丸くなる」厳しいリソースでもチームとマシンの完成度は高い【大阪大学】

昨年の記事タイム抹消の厳しい現実、魅せた速さは幻に【学生フォーミュラ日本大会2023】で「再製作を大幅に減らし爆速で車両を作り上げ、走行回数を増やすことでタイムを稼ごうという方向にシフトしたスケジュールを組んだ」「Final6は狙っていく」と語った通り、今シーズンの阪大はこれまでとひと味違う。3月上旬にシェイクダウンを済ませ、その1ヶ月後にはエアロ部品を搭載するところまで持っていった。今回はそんな勢い凄まじい大阪大学学生フォーミュラチームOFRAC(チーム公式HP: Osaka-univ.FormulaRAcingClub (ofrac.net))に話を聞いた。

ここ数年結果を残せていない阪大は今年新規設計を減らして、車両完成を優先する選択をしてきた。これは大きな変化だ。「新しいメンバーが慣れていない状態での設計で、プロジェクトが上手く進んでいなかったこともあって、新設計という話も出てこなかった」「実働7人という少ない人数で動いていて、やりたいことがあってもやれる感じではない」とネガティブな理由が並ぶ一方で、「堅実に行くほうがチームとして丸く(ひとつに)なると思った」という答えも返ってきた。ここに今年の阪大の強さがある。学生フォーミュラでは自主性、創造性を大事に『やりたいこと』をやろうとするチームも多い。ただチームとして動く時、この『やりたいこと』がチームの中で統一されメンバー全員が同じ方を向くか、というとそうとも限らない。その結果不完全な状態で大会を迎えて、結果が振るわないチームは少なくないのだ。その点、「メンバーが目標を暗唱できるようにしてきた」と語る阪大はメンバー全員が同じ方を向けるチーム目標を据えて、シェイクダウンを完遂させてきた。

2024年マシン、カラーリングは今後変更されるか。
リア周りは基本的にキャリーオーバー。

2024年マシンだが、モノコックは基本的に昨年のものと同じ。アップデートも最小限にしたという。「(モノコックは)ステアリングの配置変更に合わせたくらいで、昨年とほぼ同じ」「それによってSES(等価構造計算書)に時間をかけず、確実に通過出来ると考えた」とのこと。騒音対策は行うというが、パワートレインも基本的にはキャリーオーバー。そんな中で、サスペンションは比較的大きく変更をしたところだとか。昨年マシンについてサスペンション担当は「速いチームに比べてボトムスピードが低かった」「動画で検証したが、同じタイミングでコーナーに進入しても、コーナー出て来る頃にはコンマ数秒遅れていた」と話す。これを受けて今年のサスペンションは定常の安定性、ボトムスピードを上げて出口に向けた加速につなげていくための変更をしたという。大きな変更の一つはエボサスを廃して、転舵軸の設定もより素直に動く方向にした点だ。京都工芸繊維大学や岐阜大学など速さを見せるチームが採用するエボサスはフロントにグリップを得る(寄せる)ために有効だが、設定次第でデメリットもある。「エボサスを使っていくと、リアの荷重を減らしてしまう」「リアのキャパシティを減らす方向になってスキッドパッド(定常)では不利になると考えた」「これまでは初期応答を意識したマシン設計だったが、今年の設計変更でこの部分がスポイルされる可能性はあるが定常、ボトムスピードを上げる方向でアプローチしている」と語る。

ステアリングギアボックスがモノコック内に変更。
排気系は昨年から流用。
プッシュロッドはロアアームに取り付けられる。

またブレーキングの姿勢についても課題あったという。「ブレーキングでリアがふわっと浮いた感じで不安定だった」「重量配分を変更して、モノコックから後ろを大きく変更している」とのこと。さらにダンパーも変更されている。2022年から支援を受けているTEINから、それ以前に使用していたOhlinsに戻す形になる。これは低速側、高速側其々で狙った減衰を出すためだという。TEIN製の学生フォーミュラ用ダンパーは低速側の調整のみで、高速側の調整機構を持っていない。対するOhlins製の学生フォーミュラ用ダンパーは高速側の調整機構を持っていたためこちらを選択したとのこと。これについてはTEINと相談の上で、まずは今年限定でOhlinsを使用するという。これらサスペンションの変更についてシェイクダウンで走ったドライバーは「動きが素直になっていて、セット変更の感度も高くセッティングしやすくなっていそう」と上々の反応だ。

TEIN製 学生フォーミュラ用ダンパー
Ohlins製 学生フォーミュラ用ダンパー

シェイクダウン後1ヶ月でフルエアロにしてきた阪大、「昨年はエアロが理由でタイムが残せず、その前も製作が間に合わなかった」「自分の不甲斐なさや、ライバルが綺麗なウイングとかエアロを付けているのを見て悔しく思った」「実績がある阪大っていうチームで、自分たちの代で落ちぶれて行くことに対しても悔しさがあった」「その悔しさが今年のモチベーションになっている」と語るのはエアロ担当。物静かな印象だが、言葉の端々からストイックさが滲み出る人物である。それに留まらず、シェイクダウンまではモノコックの積層をした後、ウイングの型を製作するなど膨大なタスクを1人でこなすタフさも見せたという。そんな彼が設計製作をしたエアロだが、まずは昨年のトラブルに対する対策だろう。昨年フロントウイングの取り付け部の内部構造物が変形したことで取り付け位置が変化して路面干渉してしまったため、ウイングとモノコックとの取り付け構造を変更したという。性能面では、エボサスを廃したことで初期応答が落ちることに対して、フロントのダウンフォースを上げることで進入時のグリップを補う設計をしたとのこと。

2023年マシンのFrウイング取り付け部
2024年マシンのFrウイング取り付け部
フロントウイング裏面に大きなストレーキが付いた。

実は2024年マシンを小規模変更に抑えた理由がもう一つあった。それはチーム財政難だ。「(パイプフレームから)モノコックに変更した時に大きな支出があって、そこから資金難が続いている」「設計も優先順位をつけて、節約をした」「吸排気が流用されるのもそのため」とのこと。それはエアロも同じで製作リソースを減らす工夫がされている。「型を使い回すことで製作リソースを減らした」「同じ翼型が使えるように設計して、フロントウイングのフラップは同じ型で積層して長さを変えて使っている」という。

フラップは同じ型を使って製作されている。
取り付け部をウイングの構造内に仕込んで効率を上げているとのこと。

チームの状況やリソースを理由に改良箇所を絞っているものの、昨年のタイムを見てもポテンシャルがあることは明らか。すでに車検対応にも着手しており、現状でもマシンの完成度は高い。今後は泉大津フェニックスをメインにテスト走行を重ねていくという。「ずっと京都工芸繊維大学をベンチマークしていて、ここ数年で最終的には追いつき、追い越せるようなマシン作りをしたい」「京工繊の連覇を止めるチームは自分たちだと思っている」「今年京工繊が転けた時でもしっかり獲りにいけるように準備をしたい」と手堅い目標を定めて進めてはいるが、やはり強豪・阪大としての意地も見え隠れする。ここ数年京工繊一強の大会が続いているが、その流れを変えるのは大阪大学学生フォーミュラチームOFRACかも知れない。大いに期待したい。