小型簡易風洞と空力開発フローの補完【富士エアロパフォーマンスセンター】

 この簡易風洞が学生フォーミュラやレース関係者に認知された時のSNSでの反応は様々で、ネガティブな反応の多くは固定床であることが指摘された。床が固定されていることを実走行に当てはめるとマシンと同じ速度で地面も動いていることになってしまうからだ。もう少し踏み込むと、流体は粘性によって物体に近ければ近いほど流速が落ちる、境界層というものが出来てしまう。固定床の場合には床に近い部分にこの境界層が出来る。

画像

 さらにレーシングカーの場合は車高が低いため(学生フォーミュラの場合は20〜30mm程度)、フロアがこの境界層に入って測定結果に影響が出てしまうのだ。この影響はフロアの空力性能にとどまらず、フロアから抜けた先、リアウイングの下面流れに影響が出ることも。また固定床に乗せて測定するということはタイヤも止まった状態で測定することになる。回転するタイヤ周辺では風の流れが大きく乱れて、周辺部品に影響を及ぼす。フォーミュラカーで言えばフロントウイング後方の流れや、ホイール内のブレーキやフロントタイヤ後方にあるラジエターへの流入等の影響が想像出来る。まとめると、固定床では床下やタイヤ周りの流れが実走行と異なるため正確な測定が出来ないのでは?というのがネガティブな反応の多くだ。

画像

 では固定床で試験することに価値はないのか、もちろんそんなことはない。固定床の自動車用風洞は現在でも空力評価に使われていて、海外の学生フォーミュラ強豪チームは固定床(ベルトを稼働させない状態)の風洞でもエアロの開発をしている。結局は道具の特性、ここで言えば床下の境界層とタイヤ周りの流れを理解した上でどう使うか、が重要になってくる。学生フォーミュラでエアロ開発をしていたOBも「地面効果、タイヤ回転を考慮しない場合の現状は実際とは異なることを前提にするという認識が必要」「あくまで同じ条件で(CFDと)相関が取れるかが大事」と話す。

 他、学生フォーミュラ関係者にヒアリングしたところ「大凡のダウンフォースとドラッグを測定出来るだけでも十分価値がある」「再現性のある数値を得られるのは開発において重要だと思う」「(実走行で故障のリスクのある)勇気がいる奇抜なアイデアでも事前に風洞試験で検証できれば実践出来る可能性がある」「エンジンカウルの検証も面白いと思う、CFDでも出来るが詳細なモデリングをする必要があることから計算リソース的に厳しいので実車で出来ると嬉しい」「全く(風洞による)評価をしてこなかったこれまでを考えると価値がある」「(割り切った装置でもCFDと)境界条件を合わせて『やれることをやる』というのは大事」という声が聞かれ、早くマシンを乗せてみたいというチームも出てきている。

 そもそも学生フォーミュラでは現物を評価することに大きな意味を持つ。というのも、CFDで高度な解析、設計をしても実際に空力部品を作るのは学生。自前で窯を用意してメス型、ドライカーボンで作るところもあるが全てのチームがそうとは限らず、『ものづくり品質』という点で解析通りに機能しないことも多いからだ。また実際にマシンを走らせてウイング取付点荷重やプッシュロッド荷重を取ったり、タフトをつけて流れの可視化を試みるチームはあるが実走行にはその時の風や路面、タイヤの状態やドライビングといったエアロ以外の要素が絡み再現性という点では難しさが残る。例えば前年と今年でマシントータルのエアロ性能がどれくらい上がったのかを実走行だけで比較することはかなり難しい。総じて風洞試験が出来ること自体が学生フォーミュラにとっては大きな価値になると言える。

画像

 実は今回話を伺った本センターのエンジニアは学生フォーミュラOB。前述のような特性の簡易風洞を学生フォーミュラで使うこと、さらには使った先の静的審査でどうなるかも想定された話は非常に興味深いものがあった。その上で「少なからず空力開発のフローで抜けているところを補える」「教育的観点でも見ても空力開発を深掘りするチャンスが得られる」「簡易風洞を活用して海外やF1の模倣にとどまらない、エコパで速いエアロを見つけて欲しい」と語って頂いた。『富士エアロパフォーマンスセンター』は2月中旬から予約開始、3月中旬オープンの予定だ。