「今年は実力でファイナル6に」昨年急浮上した日大理工・大石、真価を問われる3シーズン目へ【日本大学理工学部】
2024年大会のオートクロスは、新会場のバンピーな路面とテクニカルになったコースレイアウトが、ファイナル6入りを狙う強豪チームを苦戦させ、脱落させる荒れた展開となった。その一方で、この機を逃すまいと上位に食い込んできたチームもいた。そのほとんどがキャリアのあるドライバーを擁するチームだった。学生フォーミュラではベテランドライバーとなった髙口を擁する名城大学、最終学年で結果を残した岡野を擁する東京農工大学、そして今回取り上げる日本大学理工学部とエースドライバーを務める大石喜生(おおいし はるき)だ。シーズン2年目にして、チーム初のファイナル6進出に大きく貢献した大石に焦点を当てる。


大石は大学までにカートとスーパーFJでキャリアを積んでいる。「保育園でスクールの割引券をもらってきたことがきっかけでジュニアカートスクールに入った」という大石は、10歳の時にカデットクラスでレースデビューし、その後に全日本カートを経験。高校に入ったタイミングでカートから4輪に完全転向したという。「4輪は中学生の頃から経験を積んでいて、初めて乗ったのはフォーミュラエンジョイだった」「クラッチ操作にかなり苦戦したし、フロントブレーキも初めてで、すぐにロックするので難しさも感じた」と話す。スーパーFJは筑波サーキットをホームコースにトレーニングを積んでいるという。


「大学に入る前から学生フォーミュラは知っていた」「レース活動も視野に入れつつ進学を決め、学生フォーミュラをやっている大学を探していた」と話す大石は、いくつかの候補を見た中で「設備が整っていて、なんとなく強そう」というイメージを持っていた日本大学理工学部に決めたという。学生フォーミュラに入る動機については、「レース以外のところにも身を置くことで知識が広がり、またチームマネジメントも学べると思った」とのこと。入部した大石を先輩たちも歓迎した。「新歓のグループラインに入った時に、自分のアイコン(カート時代の写真)を見た先輩から『ドライバーやってもらうから!』という声もあって1年生の時から乗せてもらえることになった(笑)」「初めて乗ったときは、ブレーキに問題がある状態で乗ったのでびっくりはしたけど面白かったし、ワクワクした」と当時を振り返る。
学生フォーミュラのドライバーとなった大石だったが、運転以外の課題にも苦労する。「乗るのも難しいが、自分が伝えたいものが上手く伝わらないところが難しいと思った」「特にドライバー周り、ステアリングの位置とかシートの剛性感とか理解してもらうのに苦労した」「中でもペダル周りはヒールレストや回転軸とか、違和感を覚える箇所だった」とのこと。一方、セットアップは、先輩たちの知識量が多く、助けてもらうことも多かったという。


1年生からドライバーとして2023年大会に参加、エンデュランスの後半スティントを担当するも、交代して走り出した直後にリタイヤ。苦しい学生フォーミュラデビューとなった。そしてシーズン2年目となった昨年、大会こそ注目の走りを見せたが、それまでの道のりは険しかったという。「昨年走り出しは修正箇所が多く、兎に角まともに走るようにフィードバックをしていった」「車を準備する中で、チームの方針にもリクエストを出した」とのこと。大石はドライバー専任という学生フォーミュラでは珍しいポジションを取る。それ故にこのマシンを修正していく時間は悩みもあったという。「製作に参加せず、ドライバーに専念していることもあって、(フィードバックを出すことが)最初は嫌われるかなと考えた」「ただ、みんな精一杯良い結果のためにやっている以上は自分も躊躇せずに意見を言っていこうと思った」と話す。


そして、この時間が大会の大躍進へとつながる。「大会直前にブレーキ周りに修正が入り、大会時も完璧な状態ではなくて不安が大きかった」「ただオートクロスを走り出してからは結構冷静になれたので、最終的には車がどうであれみんながやってきたことに応えよう、この車を信じて攻めようと思えた」、その苦労と走りが報われる。「オートクロスが終わって、4位と聞いて一気にぱーっと開放された感じになった(笑)」「その後も、ファイナル6に残れるかソワソワしていた」「夜に正式結果が出て、やっと実感が湧いた」と、コメントからは当時の大石、そしてチームの沸き立つ様子がうかがえる。


改めて新しいコースの印象を聞くと、「大会まで新しいコースレイアウトは走れなくて、シミュレーターで練習していた」「シミュレーターを乗った感じだとバンプがひどくてまともに走れないと思っていたが、当日コースウォークで確認したら、思っていたほどひどくなかった」「路面μも低い印象なので、変にバンプで引っかかったり着地でひっかかったりしなかった」「カート時代からテクニカルセクションの方が得意なイメージがあって、低速コーナーの方が好き」「バンプの高さは実際とシミュレーターで違うが、コーナーとパンプの位置はほとんど同じで、リズムはシミュレーターとそこまで変わらなかった」と総じて好印象なようだ。


最後に今年の抱負を聞いた。「昨年はフルでアタックするとマシンが壊れることもあって、運転に車が追いついていない、限界を超えているような印象だった」「今年はドライバーに応えるマシンにするコンセプト(リンク:チーム公式HP)にしてくれて、ドライバーがやりたい動きに応えられるマシンにしてくれている」「それを信じてドライバーとしての準備をしていこうと思う」「(昨年大会のオートクロスでは)やっぱり出走出来ない強豪がいて、正直ラッキーだと思った」「それでも想定していたより上位勢との差は大きくなかった」「走りも完璧ではなかったので、もっと速く走れると思う」「今年は実力でファイナル6に出られるように走りたい」とのこと。昨年大会の勢いはそのまま、日大理工とドライバー大石喜生に今年も注目だ。
写真:公益社団法人 自動車技術会