「1周目から飛ばしていく」「感じたことを伝えられる」二人のドライバーが強豪ライバルに立ち向かう【岐阜大学】

京都工芸繊維大学、名城大学と昨年のオートクロス上位チームを取り上げてきた。今回は昨年オートクロスで3番手に入った岐阜大学。前の2チームと岐阜大学の大きな違いは2022年大会時点でモータースポーツのキャリアを持ったドライバーがいないこと。オートクロスに出走した岐阜大学の小堀貴俊(こぼり たかとし)と安藤丈流(あんどう たける)の二人はいずれもいわゆる普通の大学生である。そんな普通の大学生がお互いの長所を上手く使い、補い合いながら速さを手にしてきたところに岐阜大学のドライバ-最大の魅力がある。今回は安藤、小堀の二人に加えて技術部門を統括する近藤を交えながら昨年大会を振り返り、今シーズンに向けた意気込みを聞いた。

左:安藤、右:小堀
二人が使用するヘルメット

大学選びの段階から学生フォーミュラを知っていたという安藤と小堀、ともにモータースポーツ好きということもあってチームに参加したのだとか。幼い頃からレーシングドライバーに憧れを持っていた二人はチーム加入後ドライバーを志望。小堀は「2019年の大会を現地で見ていて、正直自分ならもう少し速く走れるんじゃないかと思ってドライバーを志望した(笑)」という。

学生フォーミュラの運転で難しいところはどこか?という問に対して安藤は「大会本番と近い環境での練習機会が少ないこと」「短時間の走行で詰められるポイントを見つけなければいけない」と話す。また小堀は「トラブルやマシンの完成遅れで走れなければぶっつけ本番になる」「緊張と大会中の疲労の中で最大限の力を発揮するのが難しい」と答えた。国内のチームの中には設計製作に携わらないドライバー専任のメンバーを持つチームもあるが、これは極めて稀なケース。2022年にチームリーダーも務めた小堀のようにドライバーだけでなく設計製作、コスト審査やデザイン審査の準備もしつつ、さらには大会当日の車検やマシントラブルに対応するケースも多い。いつも万全の状態で走るとはいかないのも学生フォーミュラではよく聞く話である。

2022年8月のテスト,乗り込む直前の小堀
2022年8月のテスト,トラブルに見舞われながらの走行

冒頭に書いた通り、彼らにモータースポーツのキャリアは無い。それ故にマシンを走らせてエンジニアにフィードバックするというレーシングドライバーでは当たり前の仕事も彼らにはハードルが高くなる。小堀は「自分は素人なので、セッティング変更による挙動変化等を感じ取って、それを言語化して伝えるのもとても難しい」と話す。マシンの評価に難しさを感じる小堀に対して「良くも悪くも走行中に色々気になってしまう」「色々感じたことを伝えられるのが自分の特徴」と答えたのは安藤だ。現場でセットアップ等を取り仕切る近藤も「二人とも同じようなことをコメントが返ってくるが、安藤は解像度が高い印象」「評価したいところを的確にコメントしてくれるため、テストはだいたい安藤から乗せる」と安藤のフィードバック、セットアップ能力を高く評価する。小堀も「安藤はエアロの製作を見ても細かいこだわりが見られる」「自分が鈍感なことはわかっているので安藤に任せている(笑)」と信頼を寄せる。

 一方安藤は「周回を重ねないとなかなか攻めていけないのが1番の課題」と話す。これに対して小堀は「自分の特徴は1周目から飛ばしていくところだと思う」「1周目は様子見で、ある程度のペースで走る人も多い気がするが、あまり様子見とかは気にしない」「その場その場で迫って来るコーナーに勘と勢いで走る」という。昨年オートクロスでは先に小堀がアタック、その後安藤を出走させた岐阜大学。結果としてベストタイムになったのは小堀のタイムだ。

2022年大会オートクロス

ドライバーの二人に昨年のオートクロスを振り返ってもらった。先に出走してタイムを残した小堀、「事前のテストはトラブルでろくに走行できず、その後も走行距離を稼げなかったが意外と速かった印象」「ただステアリング系が完成しきれなかったため舵角が足りなかった」「ホイールを小径化(10インチ化)した割にはスラローム等で動きがモッサリしていたので、改善点も多かったと思う」「1個目のスラロームから2個目のスラロームまでの連続コーナーの区間では特にライン取りが汚く、ブレーキングポイントやスロットルを開けるポイントや開度も勘であったので、今年の大会では自分の走りで不満に思ったポイントを1つずつつぶしていきたい」と語る。同じくステアリングにトラブルを抱えながら走った安藤だが、厳しい状況の中でもしっかりと走り切る。「ステア系のトラブルが悪化していく状態で、狙い通りのマシンパフォーマンスは出ていなかった」「トラブル続きで大会前のエコパ(テスト)で1度も乗れず本番のオートクロスが昨年のマシンでのエコパ初走行だった」「あまり条件の変わらない小堀が速かったのでそこはかなり悔しい」と、話聞く間は常に物静かで繊細な印象を受ける安藤に闘争心が垣間見えた瞬間だ。

2022年大会オートクロス