13インチから10インチへ、変化する足元事情

まずは“全体像”から

ここ10年の間に学生フォーミュラのタイヤ事情は様変わりし、最近はさらに新たな変化も訪れようとしている。今回は国内モータースポーツとは少し異なる学生フォーミュラのタイヤ事情を紹介する。

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タイヤに関して、全世界共通の学生フォーミュラ(Formula SAE)のレギュレーションでは「4つのタイヤ・ホイールが四辺形に配置されていること(トレッド幅の差異は75%まで)」、そしてホイール径が8インチ以上、と記されている程度でそれ以外に大きな制約はない(ちなみに6輪は不可)。スリックタイヤに限定されているわけでもないので、国内ではいわゆるSタイヤを選択するチームもある。日本大会で見られる主なタイヤメーカーとしては専用バイアスタイヤを販売するHoosier、専用の低偏平ラジアルタイヤを支援という形で提供しているContinentalが挙げられる。Dunlopも支援をしているが、もともと量産車のスポーツ走行・競技用の製品で想定荷重が学生フォーミュラの4倍以上のタイヤが提供されることから、前述の2メーカーの専用品に対して、実走行の競争力で劣る。そのため最近はDunlopからHoosierへ変更するチームも見られる。サイズはホイール径10インチ、13インチ(この後もタイヤの概サイズについてはホイール径で記述する)が主流だ。

世界に目を転じればGoodyearが専用バイアスタイヤをラインアップしており、2019年には新スペックも発表した。Michelinも2016年に支援終了を発表するまでの7年間は専用タイヤを提供していた。またAvonも専用タイヤを出していて、2019年に大阪府立大学チームが採用。こちらはHoosier以外で唯一、10インチ・スリックがラインナップされている。

このAvonの10インチ・スリックは、2013年に京都工芸繊維大学チームが使用した前例がある。その時のタイヤの印象としてはまず、Hoosierの10インチに対してトレッドゴムが極めて柔らかく、指の爪を当てると食い込むほど。一方、構造は剛性感が高く操舵応答もHoosierより早く感じられたとか。体感として温度レンジはHoosierよりも下にあって、大会の際のオートクロス一発アタックでのピークグリップ、コンパウンドの発動をメリットと考えて選定された。しかしこの年の大会当日は路面温度が高く、路面の砂も多いコンディションであった。そうした条件下のエンデュランスではフロントタイヤにグレイニング(コンパウンドの表面が十分に溶けて粘着する状態にならない中で、タイヤを横・縦に滑らせ摩擦させると、表面が微細に千切れてささくれ状の不整摩耗が生ずる)が発生、4周ほどでグリップダウンしてしまう。加えてエンデュランス後半ではリアタイヤにムービング(トレッド層全体が柔らかくなりすぎると、が発生して苦しい状況となった。例年9月上旬に開催され、路面温度が50度以上になることもある日本大会ではコンパウンドの作動温度レンジから外れてしまうことに加え、柔らかく弱いゴムを安定して発動させる難しさもあり、京工繊チームは翌年からHoosierに戻している。

2019年日本大会ではオートクロスの走行タイム上位20台のうちHoosier製10インチ・タイヤを履くマシンが15台を占め、Continental製13インチ・タイヤを履くマシンが3台、そしてHoosier製13インチ・タイヤを履くマシンが2台であった。さらにこのHoosier製13インチ・タイヤを履く2台のうち1台はEV(車両重量がかなり大きい)であり、コンベンショナルなICVは上位20台のうち1台のみだ。この結果からすると少数派に思われるこのHoosier 13インチ勢だが、5年ほど前まではロードスポーツ用4気筒・600ccエンジンを載せるマシンにとっては定番の選択肢であり、むしろ当時から4気筒エンジンと10インチ・タイヤの組み合わせで速さをみせていた横浜国立大学チームは縦置きエンジンとシャフト駆動という基本レイアウトも合わせて『特異なパッケージ』という印象が強かった。それが現在では、速いマシンは搭載するパワーユニットによらず10インチ必須の流れさえ感じるほど、動的審査の上位に並ぶチームの10インチ・タイヤ採用率が高い。

4気筒+13インチが多数派、10インチは軽量な単気筒との組み合わせ、という流れが変わったのが2014年、4気筒エンジン積む大阪大学チームの10インチ・タイヤ導入だった。それまで既に優勝の実績もある強豪チーム・大阪大学が13インチから10インチに変更し、しかもその年のオートクロスで1番時計を記録。この快挙に対する期待感と他の4気筒搭載チームが得た刺激、タイヤサイズ縮小に対する不安感の払拭効果は大きかったと想像する。その後、4気筒エンジンを積む千葉大学、神戸大学等が10インチへ変更し、阪大に続いた。さらに一昨年、昨年と10インチに転換し速さが急上昇しているのが東京都市大学、東京農工大学。今回はこの2チームに10インチ化について話を聞いた。