13インチから10インチへ、変化する足元事情

10インチ・サイズのホイール事情

10インチタイヤの流れを組んでか、それを履かせるホイールも各メーカーライナップを増やしている。10年ほど前はKaizerやDouglasのアルミホイールがよく見られ、後述するOZ Racingが10インチホイールを出すまでは多くの10インチ勢が選択していた。現在でも名城大学や神戸大学がKaiserを採用している。

ただKaizer、Douglasともにマルチピースのアルミホイールで剛性を確保するのが難しい。その剛性不足解決、軽量化メリットを理由に、それらに変わって現在上位チーム御用達となっているのはOZ Racingのマグネシウム合金ホイールだ。2019年からこれを採用する大阪大学は、この新戦力を手にすべくクラウドファンディングで資金集めをしたほど。他にも東海大学、京都工芸繊維大学などが採用しており、芝浦工業大学など13インチ勢の中の採用率も高くなってきた。

これ以外では、東京都市大学チームも採用したBRAIDの10インチホイールがある。2014年から10インチ・アルミホイールをラインアップに加え、2017年にはフルCFRPの10インチ・ホイールを発表。日本では横浜国立大学チームと千葉大学チームが2019年大会でこれを採用し、横浜国立大学はオートクロスで2位を獲得した。しかしこエンデュランスでは横浜国立大学のリアタイヤ、左右ともにリム組スリップが発生している。通常、競技用ホイールのリム部にはビードの滑り止めとして細かい溝が刻まれている。しかしこのCFRPホイールにはそれが設けられていない。製造上、それが難しかったか。

そして昨年、国内メーカーもこの10インチ・ホイールに加わることとなった。ENKEIが学生フォーミュラ専用の10インチ・アルミホイールをスカラシップという形で販売することを発表したのだ。このホイール、静岡大学チームが先行でテストしていたようで、2019年大会でも使用した。現在では富山大学チームがこのスカラシップを申請、ホイールを入手したようだ。

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リム組みスリップ(ホイールとタイヤの組み込み位相滑りずれ)が発生した事例。タイヤとホイールの両方に掛かるように手書きしたタイヤセット識別文字がずれている。この分だけ滑りが生じたわけだ。

Continentalの支援拡大か?

ここまで日本大会における「10インチ優勢」の流れを追ってきたが、それとは別に新たな変化も生まれてきそうだ。これまで国内では2チームのみとされていたContinentalの支援の枠が広がるのでは?という情報が入っている。

某学生フォーミュラOBはこれまでの支援チーム数制限について「(Continentalによる)日本のチームへの支援が始まった当初はドイツ大会向けに生産された余剰分が日本のチーム向けに提供されていて、それが供給チーム数の制約につながっていたのでは?」と語る。実際に支援開始当初は1シーズンに1セットのみで、大会までの開発と実戦に十分とは言えなかった。

それが今ではドライタイヤ3セット、ウェットタイヤ1セットに増え、日本のチームが一定の評価を得られ、本腰を入れた支援に変わって来たという印象。ここで支援枠が拡大されても不思議ではない。

Continentalとの支援関係、専用タイヤについて支援を受けているチームの関係者に話を聞いた。「支援可否や支援セット数は直近のリザルト等を元に日本法人と本国とで協議されて決まる」「コンパウンドは数年毎に変更があるようだが、基本的にはチーム側がコンパウンドを選択することはできず、支援を受けるチームには同じコンパウンドが提供される」とのこと。また現在の支援条件では技術的なレポートの提出義務はなく、1年を通した活動報告、大会結果報告がされるのだという。

「Continentalを選ぶメリットは何か?」という問いに対しては「(10インチに比べ)ホイールリム内レイアウトの自由度が高い一方、タイヤハイトが低い(ラジアル構造で偏平率が小さい)ことにより重心高を低くできるなど、設計面で有利だ」という。

コンパウンドの使用感としてはHoosierよりもタレにくく、耐久面でのメリットがあるそうだ。ただそこには「タイヤカスを剥離させる使い方が出来れば」とのこと。Continentalを使い始めた当初はピックアップ(トレッドのゴムがちぎれて路面に散乱した細片が粘着くこと。これが多くなると振動発生はもちろん、本来のコンパウンド・グリップが得られなくなる)が課題として上がっていたらしく、これを克服することがひとつ目のハードルになるかもしれない。また難しさは路面との相性にもあるようで、「サーキットの、μが高いアスファルト舗装を想定したタイヤなのか、エコパの(本来、駐車場としての舗装で骨材の砕石が比較的細かく、アスファルトも汎用品と思われる)路面では発動が難しい。」とのこと。

本格的なレースタイヤでは、作動温度レンジに加えてゴムの強度(引っ張り強さ)の違いでもその時々に使うタイヤが選択される。とくに日本のスーパーGTのようにタイヤ選択の自由度があるカテゴリーでは、それぞれのサーキットの路面状態や摩擦特性、そしてレースが行われる日の気温、路面温度予想はもちろん、コースのレイアウトによってタイヤにかかる荷重の違いなどによって様々な検討がなされ、レース毎に持ち込むタイヤを変えている。Continentalの学生フォーミュラ用タイヤがサーキット系アスファルト路面(ドイツ大会の舞台は国際級サーキットでそのレーシングコースも同的審査に組み込まれている)を想定した引っ張りに強いゴムであった場合、エコパの路面ではトレッド表面とそれを支える層の高分子間に働く負荷が小さく、発動が難しい、その結果本来想定したグリップが得られない、という状況が起こりうる。逆にAvonのように柔らかく強度もそれなりに弱いゴムだと、発動して粘着状態になる前に縦・横に大きく滑らせ、そこで荷重をかけ過ぎると、ゴムがちぎれてグレイニングを起こしてしまう。ここらへんが路面とタイヤの相性の難しさだろう。

ウェットタイヤについても言及してくれた。「(Continentalのウェットタイヤは)ヘビーウェットも走れて、水量が少なくなるほどライバルに対してアドバンテージがある」。排水性を確保しつつ夏の路面温度であれば発動して、なおかつ水が少なくなったところでもゴムが壊れないところに、コンパウンドの作動レンジを持っていて、カバーしているレイン・コンディションが広いということだろう。対するHoosierのウェットタイヤは、Continentalに比べて溝が太く深く、加えてブロックも大きい。水量が多いところではアドバンテージがありそうだが、水がなくなったところ、乾いたところを走らせると、ブロックがむしられたように摩耗する印象を受けている。

エコパの動的審査の場は、もともと駐車場として整備された広場であり、当然コースに応じたカントなどはついておらず、舗装の違いやその継目も多く見られ、水捌けの早いところと遅いところ(水が残ってしまうところ)の差も大きい。雨が上がってドライアップしてゆくコンディションの中でも水が溜まったまま残る部分、しかもそれがコーナリングのライン上に位置するところもある。これによってウェットタイヤからドライタイヤ、とくにスリックタイヤに変えることを躊躇しがちだ。実際にコース全域で見ると大部分が乾いていてもウェットタイヤの方が速いこともあり、エコパでのクロスオーバー(路面が乾いてゆき、ウェットタイヤよりもドライタイヤで走ったほうが周回タイムが良くなる境界)はサーキット走行の一般的な感覚よりも先、よりドライ側にある。こうした特異な環境を考えるとレンジが広いContinentalのウェットタイヤは頼もしい。

けして一朝一夕で速さが得られるわけではないが、ドライ、ウェットともにContinentalの速さは上位に入っているチームによっても証明済みで、日本でもHoosier10インチ勢と互角に戦える位置にいる。もうしばらくはHoosier 10インチ優勢の流れが続きそうだが、Continentalの日本での支援枠拡大によってこの構図に変化が訪れる日はそう遠くないかもしれない。