試練の連続、それでも前へ【早稲田大学】

 チームを念願のファイナル6へと進めたエースドライバー稲葉氏は現役のSuperFJドライバー。テスト日程やマシントラブルによって大会までの走行機会に恵まれず7月のエコパを数周走ったのみだった稲葉氏は「先輩たちの動画をみてイメージトレーニングをしてきた」「ただ実際に走ってみると違った」「オートクロス1本目で車の状態とコースの状態を確認して、2本目はどうなってもいいという感じで走った」と話す。
 走行の結果ペナルティを考慮しない生タイムだけでみるとオートクロス7番手だった早稲田、競技終了直後はまだファイナル6が確定しておらずチームは正式結果をバスの中で知ることとなる。稲葉氏は「皆で(結果の)画面を見ていて、ファイナル6だ!となった瞬間『うぉぉぉ!!』ってなった」「設計で貢献できていなかったが、こういうところで先輩の喜ぶ姿が見れて嬉しかった」と歓喜の瞬間を振り返る。

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 エンデュランスが大会5日目になったことで一息つけるかと思われた大会4日目だったが、そうはいかず彼らの試練はここから更に加速する。エースドライバーの出走後、2人目のドライバーが出走しゴールした直後にチェーンが外れるトラブルが発生。これを修理するには周辺部品を取り外す必要があり、修理した部分は再車検となった。このトラブル自体は特に問題なく修理を完了し再車検も通過する。しかし修理後にプラクティスでマシンのチェックをしたところドライブシャフトが抜けるトラブルが発生する。これによってチームは翌日のエンデュランス出走までにマシンを修理、再車検を通過しなければいけなくなった。チームはアームを切断し短くすることでドライブシャフトが抜けるないようにする対応策をとった。幸い過去の経験からアームを短くしてもロッドエンドが取り付くようにネジ部が長くなっていたため、チームはリアアームを切断して短くすることができた。ただ4日目中にすべての作業が完了せず、大会運営側に申請した上でリアサスペンションの一部のみを会場から持ち出すことにした。ホテルに戻ったチームは必要な人員と工具、該当部を持って近くの河原へいってアームを加工したのだとか。これによって5日目出走前に無事再車検を通過しエンデュランスにマシンを並べた。この時の状況は「予選でマシン壊して決勝までに直さなければいけない、あれそのものだった」とのこと。

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小林という男の存在
 エンデュランスに移る前に話題を過去に戻そう。2020年、チームは例に漏れずコロナ禍の影響を受け活動制限がかかる中で製作を進めていた。しかしフレームがほぼ完成したところで活動が中断、そして2020年大会は中止に。8月に製作を再開するが制限はかかったままだった。製作に動けるメンバーは2,3名と極めて少なく、活動制限もかかるチームは存続の危機にあったという。この危機的状況にあるチームを守り、引っ張ってきたのは当時のリーダー小林氏だった。彼は2020年に完成せられなかったマシンを2021年に完成させ公式記録会に持ち込んだ。小林氏について彼の先輩にあたる丸山氏に聞いてみるが「車好きという訳でもないし、ドライバーで乗れる訳でもないし、エアロがやりたいという感じでもない」「(大変な期間)何をモチベーションにやれていたのかよくわからない」「自分でも『なんで俺やってるんだろう』と言っていたくらい」といまひとつ掴みどころがない回答。ただ「大変な時期に入って自分が(チームを)なんとかしなきゃ、途絶えさせちゃいけない、というのがあったんだと思う」というコメントからは小林氏の責任感のある人柄が想像できる。
 「自由にやらせてくれて、先輩に甘えられない環境でやらせてくれた」「自分で考えるところが多くて、人が強くなった」と話すのは2022年リーダーの佐藤氏。小林氏の背中を見てきた佐藤氏が「(コロナで大変な時期に)先輩が頑張ってるし、先輩のためにも走ってるところを見せたい」と語るように小林氏の頑張りは次の佐藤氏へと確実に繋がっていた。そして佐藤氏がそれを実行していることは大会4日目までを見ても明らかだ。

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 さて、話題は2022年エンデュランスへ。ドライブシャフトのトラブルを解消しマシンを並べたチームだったが、またしても事件が発生する。チームの中からコロナ陽性者が出てしまい、ダイナミックにマシンを運んでいたリーダー佐藤氏ら4名も急遽検査をすることとなった。ドライバー2人、サポート役だった1人は陰性が確認されるが運悪く2022年リーダーの佐藤氏に陽性反応が出てしまった。さらに不運は重なり昨年リーダーの小林氏までも陽性反応に。「これだけやってきた自分が(直接走っている姿を)見れなかった」「1番楽しみにしていた自分と小林さんが救護室からYoutube中継で見ることになってしまった・・・。」と話す佐藤氏からはやりきれない表情が伺える。

 チームは急遽佐藤氏の代役をダイナミックエリアに入れ、出走順を一つ後ろにしてマシンを送り出した。ただここまでのマシントラブルもあり労る走りをせざるを得なかったチームは「同時に走る岐阜大さんには自分たちのペースが上げられないことと事前に伝えた」とのこと。エンデュランス前半を担当した丸山氏は予定通りマシンを労りつつ無事10周を走り切る。しかしエンデュランス後半を担当する稲葉氏が乗り込みエンジン再始動を試みるもかからずリタイアとなってしまった。

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Twitter @125ascot

 学生フォーミュラは上位チームであっても予期せぬことはいくつも起こる。それら問題の準備をして想定外であってもなんとか切り抜けていく力を持つことが上位チームに残る最初の条件だろう。2020年から今年にかけて早稲田はこの『生命力』をしっかりチームで育んできた印象で、7月のエコパテストで早稲田から感じた「何か違う」印象もこれだったんだろう。ただマシンにおいてはあと少し、あと10周分だけ足りなかった。とはいえ、「まずは走らせたい」という価値観を持ち今年数々のトラブルの乗り越えた早稲田は確実に強くなった。来シーズン、より強くなった早稲田チームを見られることが今から楽しみである。

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