EV移行のハードルの高さ【横浜国立大学】

メーカー側のジレンマが垣間見えるEV支援

今回匿名ではあるが学生フォーミュラEV関係者A氏にも話を聞くことが出来た。横浜国立大学の参加辞退に触れ「(メンバーの方々の心情は察するに余りあるが)非常に残念である」としながら昨今のメーカーからの支援について付け加えた。「メーカー側の走ってほしいという思いとワークスのような感じで支援はできないという思いとのジレンマが垣間見える」「メーカー側が想定していない部分や逆に常識となっている部分で学生に課題が生じたとき、どのくらいサポートすればよいかがメーカー側も決め切れておらず、結果として十分なサポートが得られなかったという印象を受ける」とのこと。

2022年大会に向けてEVは14チームに増えたが、シェイクダウン出来たのは半分以下という噂でEV初年度でシェイクダウン出来たのは静岡大学のみと思われる。横浜国立大学に限らず、1年で完走までもっていく知識・技術の習得はかなり難しいとA氏は見ている。

一方、学生たちからは「自分たちが何をわかっていないのか、何を聞いて良いかもわからない」という声も聞かれた。学生たちが支援企業や大会運営サイドに助けを乞うにも「お世話になります。」から始まるメールでのやり取りだけでは聞ける情報量も限られる、本当に困っていることを伝えられていないのが実情ではないかと感じた。もちろんそうした事も含めてエンジニア育成なのだが、マシンが出来ないことには多くのことを学べないのもまた事実。「LINEでやり取り出来るような窓口があってくれると嬉しい」と話してくれたが、学生たちの正直なところだろう。

EVを選択しない=モーターで戦えると思えていない

大会を運営する自動車技術会は2025年までに「海外トップチームとの互角の性能」「ICV同等の参加チーム数への拡大」を目標に掲げてEV化を推進している。(リンク:学生フォーミュラ公式BLOG)実際に各メーカーからのパワーユニットやバッテリー等の支援が広がっている状況だ。ここについても「学生フォーミュラチームが”EVを選択しない=モーターで戦えると思えていない”状況である」とA氏は言及する。「チームにとってモーターも原動機の1つでしかなく、リソースと性能を照らし合わせて選択している」とのこと。現在メーカー支援が得られるモーターは市販車のものが多く重さの割に出力が出ないものが多い。そうした背景からか名古屋大学や静岡理工科大学は海外製のパワーユニットを自ら購入、その購入金額はマシン1台分で200万〜300万円程。現在日本のEVトップの名古屋大学はAMK製のパワーユニットをインホイールに配置する。A氏も「EVでの速さという点では4モーターEVが近道であるのは海外大会などを見ても明らかだ」という。ICV上位チームがポジションを維持しつつEVに移ることを考えるとEV上位を追いかけるのが常套手段になるが、上で述べたような予算を準備出来るかという問題が出てくる。総合優勝を想定すると「EV以外にお金をかけたほうがポジションを上げられるのでは?」という考えが出てきてもおかしくない。ICVからEVへの移行を推進し、EVでの競争を活発にしていくためにも海外製と同等な性能のモーター、欲を言えば4モーターEV向けモーターの支援が望まれるところだ。

日本大会のEV化の流れは止まらない、むしろ加速していくのは明らかだが横浜国立大学のようにEVにチャンレンジする中で大会をスキップせざるを得ない状況は可能な限り避けたいところだろう。大会に出ていない間にモチベーション低下や人員減少等でチームの存続自体が危ぶまれては本末転倒だからだ。EVが現在のICV同等の高いレベルで競い合う姿を期待する一方で、可能な限り多くの学生が学生フォーミュラの活動を経験出来るよう技術支援の方法やコスト面の緩和、EVマシンの戦闘力等課題解決にも期待したい。