自分にしかできないこと【名古屋工業大学】
強い学生フォーミュラチームには明確なキーパーソンが存在する。モータースポーツキャリアのあるドライバーや、チームに入る前にロボコン等他のものづくり系活動をしてきたメンバー等がそれになり得る。時として彼らはチームの立ち位置や特色に大きな影響を与える。その多くはチームを良い方向へと導くのだが、学生フォーミュラにも他の学生スポーツ同様に卒業や進学に伴う『世代交代』というものが存在するためそれも長くは続けられないのが実情だ。近年、キーパーソンを得たチームの世代交代が相次いだ。少し前では阪大のK氏、京工繊のU氏等がチームから抜けた。そんな大きな世代交代を迎えた多くのチームの中にあって、近年の国内学生フォーミュラを牽引してきた名古屋工業大学のトラックエンジニアY氏が今回の主人公。彼がチームから離れ名工が世代交代することで、学生フォーミュラにおける一つの大きな世代が幕を閉じると感じている。彼が歩んで来た学Fと世代交代について聞いた。
Y氏は2018年から2021年の4年間チームに在籍し、その多くをシャシー系部門と走行現場の統括を担ってきた。先輩で実力のあるドライバーたちと互角に渡り合う彼もまたキャリアのあるメンバー、名工にとってキーパーソンだった。彼のキャリアは中学に上がった時、彼の持っていたNISMOのストラップがある教員の目に止まったことから始まる。エコランの顧問だったその教員に誘われ彼もエコランを始めた。学Fではシャシー系の印象の強い彼だが意外にもエコランではパワートレインの部門を担当、自らエンジン制御を行っていたという。中高一貫校、高校2年で引退するまで活動を続けた彼だが、その引退試合がターニングポイントになる。「エコラン最後の大会で自分の担当するパワトレでトラブルを出してしまったんですよ。」「不甲斐ない結果に病んじゃいましたね(笑)」仲間たちは進学に向けて準備を始める一方で彼だけが大きな挫折に囚われ続けていた。
そんな彼を見た家族がYoutubeにアップされている学生フォーミュラ、エンデュランスの映像を見せた。そこには横浜国立大学と名古屋工業大学のマシンが走る姿が映っていた。「横浜出身なので横国を勧めるつもりで見せたんだと思います。」そんな家族の思惑に反して彼の心を動かしたのはドライバー交代、エンジン再始動でガッツポーズをする名古屋工業大学のメンバーだったという。
そして彼は無事名古屋工業大学に入学し、学生フォーミュラに入部した。当時すでに実力十分なドライバーH氏が在籍しており、Y氏のキャリアを知ったH氏が彼をサスペンション担当に任命、トラックエンジニアとしても学Fの活動をしていくことになった。
入部した彼には一つの思いがあったという。「この名工を勝たせるのが自分の使命だと思ってました。」「もちろんそれまでの先輩たちが積み上げて来たものがあっての話ですが、あと少し勝てないところに自分しか出来ないことで貢献したいと思ってました。」入部してから少しずつ彼にしか出来ないことが形成されていくのだが、その主軸は『仮説と検証による徹底的な定量的評価』に置かれていた。テスト走行の度にPreview&Reviewという資料を作成している。Previewにはテストメニューの項目と事前に検討した内容がまとめられており、テスト前にそれらをドライバーたちと共有しておくのだという。Reviewには実施したテスト項目の結果とその検証内容、ドライバーのコメントとそれに対して実施したことの効果等がまとめられている。「どんなことも性能目標に対して実際がどうなっているかを確かめます。」「テストも周回コースでセットアップを詰めることよりも、スキッドパッドやアクセラ各性能を切り分けた確認作業がメインでした。」と仮説検証を繰り返すことでマシンの性能を確認しながら高めていったという。性能ごとに切り分けて確認することについては他にも思惑があったようで「テスト走行をドライバーとトラックエンジニアだけのものせず、各パーツ担当にも自分ごととして捉えてほしかった。」と話す。
こうした彼にしか出来ないことを積み重ねて、2019年名古屋工業大学に初優勝をもたらした。2020年は突然訪れたコロナ禍の影響により活動が制限され大会も中止となり「モチベーションを保てないメンバーもいましたし、辞めていくメンバーもいました。」と話す。その翌年、静的審査のみで行われた2021年大会、結果は総合4位。ただデザインファイナルではそれまで行ってきた実証データを武器に見事、強豪・京都大学に勝って見せた。「自分がやってきたこと、自分しか出来ないことでチームの役に立てました。」と誇らしげに名工での最後の仕事を語ってくれた。
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