学生フォーミュラ日本大会2026|負けた京工繊、「しがらみ」から解放されるのか
Text : 蛙田 三也(Sanya Kaeruda)
Photo : 原島 由樹(Yuki Harashima),堀田 拓哉(Takuya Hotta)
時に、順位と勝ち負けは一致しない。2026年学生フォーミュラ日本大会、名古屋大学EVのオートクロス、ドライバーは、マシントラブルでアタックできずに終わった。いつも、走行を終えてコースから出るとすぐにハーネスを外し、グローブも外す彼が、バイザーを僅かに開けただけだった。名古屋工業大学EVにしてもそうだ。クラス2位につけ、オートクロスでは3位に入った。表彰台である。ただ、オートクロスを終えたドライバーは、チームから離れて、しばらく戻らなかった。
同じように、京都工芸繊維大学も負けた。昨年4連覇を達成した彼らは、クラス2位だった。同志社に負けた。「対同志社、というところではデザインが最も大きな敗因」と語るのは、京工繊のトラックエンジニア。デザインファイナルに進んだ同志社が満点の150点を取ったことで、その時点で60点あまりの差をつけられていた。そこから、苦手なアクセラは4気筒エンジン同志社にゆずり、スキパとオートクロスで巻き返す。京工繊、いつもの戦い方を想定していたが、「スキパの失点が想定以上だった」「エンデュランスでもプッシュし続けるマシンにできなかった」と話すように、アクセラ以外で速さ発揮することができなかった。何よりも、同志社が速かった。静的でも、動的でも負けた。これまで京工繊が見せてきた勝利の形を、そのまま見せつけられたわけだ。


同志社の初優勝を予感していたのと同じように(リンク:auto sport 2026年11月号 学生フォーミュラ2026日本大会レビュー)、京工繊の『負け』も感じていた。最初は、5月末。テストしていた京工繊の話が伝わってきた時だった。「曲がってなかった」、そうライバルチームが話していた。その詳細を合同テストの現場で再確認し、マシンの速さが足りていないと感じた。そして、関西合同テスト。結果を見れば、Newタイヤを上手く使い、ドライバーの速さもあってトップタイムで終えたが、ドライバーのコメントは冴えなかった。「同志社に対しては負けていると思う」とコメントしていた。(リンク:学生フォーミュラ2026 関西合同テスト|大会を占う終盤のタイム合戦、京都工芸繊維大が最速、同志社が肉薄)
今年の京工繊の難しさは、マシンが、リアのスタビリティを上げる方向であるのに対して、ドライバーの要望はもっとフロントが応答するマシンにしたい、という違いにあったと思われる。セットを変えて、曲がる方向にしているが、リアの限界を下げている、と見ることもできる。現に、合同テストではデグラデーションを大きく感じていたようだ。マシン側(もしかしたら、デザイン審査のシナリオの中のマシンの姿)と、コース上でドライバーが欲しい姿。その間に、少しずつズレがあったのではないか。その落とし所を探った結果だったのかも知れない。


大会のオートクロスを走った後、ドライバーが開口一番、「路面やん!」と口にした。悔しさを誤魔化すように、少し笑いを含みながらの訴えだった。ここまで、京工繊の速さを担ってきたエースである。想定していたよりも、路面のグリップが低かった。それは、路面温度なのか、トラックエボリューションなのか、答えは出ていない。ただ、京工繊のエースが走った17時前に対して、トップの同志社や北大が走ったのは19時前だった。そのタイミングの方が、タイムが出ていた。結果的に、17時前のアタックになったが、トラックエンジニアは迷っていた。一度16時過ぎに並んだあと、「やっぱり早すぎた」とピットに戻して、再度並んで出走したのが17時前だった。路面温度に重きをおいて、タイミングを図ったのだろう。
今年は、それではいけなかった。
路面以外にも誤算があった。スキパを走った時から、マシンのステアバランスに左右差が出ていたという。「(原因は)完全にマシン側で、フロントベルクランク周りか、フロントのARBから来ていると思う」と、トラックエンジニア。そんな状態でのアタックだった。京工繊の歯車は、大会のその瞬間だけでなく、テストの時から噛み合わなくなっていたのかもしれない。速さを示せなかった京工繊は、久しぶりに惨敗を味わうこととなった。


時折、負けたことに、何か、特別な意味付けをしているのを目にする。有名な漫画でも、それを『財産になる』と書いている(あの作品も学生競技ではあるが・・・)。私は、敗者『だけ』が得る、特別な学びが存在するとは思わない。むしろ、勝者の方が多くの学びを得て、準備をしてきたからこそ、勝者なのであるとも思う。繰り返し、挑戦して、勝負ができるならまだわかる。しかし、学生フォーミュラのように1年に1回、繰り返しのない競技なら、なおさらである。
ただ、今年の京工繊は、これまでの戦い方では勝てないという事実を確認した。無論、シーズン前に、なんなら、昨年大会の時点で、同志社にやられる可能性は見えていた。それに対応することはできなかったのか。そんなことも考えることもできるが、こればかりは、結果論である。
最後に、今年、速さを牽引してきたトラックエンジニアは、「ある意味で、『しがらみ』がなくなった」「ここから2、3年楽しみにしていてほしい」と締めくくった。京工繊が向かう先、それは彼の言う『しがらみ』の意味によるところかもしれない。
1988年生まれ。大学在学中に学生フォーミュラに参加し、卒業後は自動車業界を経験。現在はモータースポーツを主軸とする技術ジャーナリストとして活動する。学生フォーミュラを起点に、競技車両の設計思想や製造の現場、競技を支えるエンジニアの思考を取材・執筆。技術と競技のあいだにある「それを作る人たちの思考」に関心を持ち、現在は国内外のレース車両開発や人へと取材領域を広げている。

