学生フォーミュラ日本大会2026|すべてが完璧、同志社が圧倒的な安定感を見せる
Text : 蛙田 三也(Sanya Kaeruda)
Photo : 原島 由樹(Yuki Harashima),堀田 拓哉(Takuya Hotta)
5日目を迎えた学生フォーミュラ日本大会2026。この日はEVクラスのスケジュール変更に伴い、ICVクラスのエンデュランスが実施された。しかし、前日のオートクロス終盤に発生した車両火災の影響は大きく、スケジュールはさらに変更を余儀なくされる。当日朝の時点で展開された情報は『午前の競技はキャンセル』のみ。各チームは「午後には走るかもしれない」という前提のまま、待機を続けるしかなかった。
午前6時30分の開場から約4時間半後、ようやくICVクラスの代表者が招集され、午後から競技を再開することが発表された。本来は2人のドライバーが10周ずつ、計20周を走るエンデュランスだが、最終日にEVクラスの走行競技が控えていることから、この日のうちにICVクラスを完了させる必要があった。そのため周回数は半減され、各ドライバー5周ずつ、計10周という異例のフォーマットへ変更。ICV勢は、スプリント色の濃いエンデュランスへ挑むこととなった。
総合優勝を争うチームの中で最初にコースインしたのは京都工芸繊維大学。昨年同様、同志社大学が優位と見られる状況で迎えたエンデュランスだったが、周回数半減によって勝負はよりスプリント色を強めた。一方で、同志社に対してデグラデーションが大きいとされる京工繊にとっては、周回数減少は歓迎できる条件でもあった。さらにオートクロスでも示した通り、一発の速さには絶対的な強みを持つエースドライバーだけに、1周の価値が高まる今回のフォーマットは、アウトラップから差を築ける舞台でもあった。風は京工繊に吹いているように感じられた。
オートクロス後に若干のセット変更を施したマシンは、前日に見られたバイト感の不足が改善され、しっかりと路面を捉えているように映る。アウトラップから74秒台を記録すると、2周目、3周目には72秒台を連発。このタイムは結果的にICVエンデュランス全体のファステストラップとなった。一方でチームとしてはスピンとパイロンタッチもあり、内容としては決して盤石ではない。それでもファステストを記録したドライバーは晴れやかな表情を見せる。
「昨日(オートクロス)は、フロントもリアも滑っていて、トラックエンジニアと相談して、内圧などできる調整をしてのぞんだ」「オートクロスでは、スラロームでトラクションをかけたところで、リアが粘らない状態にあったが、そこも改善されてタイムゲインがあったように思う」「それでも、同志社大学には完敗」「チームも暗い顔が見られたが、自分の走りとタイムで笑顔したいという思いで走った」「もちろん悔しいが、それが実現できて満足している」
2024年大会でエンデュランスデビューを果たして以来、一貫して「タイムを出すこと」「アタックすること」に自らの強みと“役目”を見出してきたドライバー。その思いの通り、走行後のチームメンバーの表情は確かに明るさを取り戻していた。



京工繊に続いてコースへ送り出されたのは大阪大学。ベテランエンジニアと2人のベテランドライバーにとって、この大会がラストランとなる。3人が積み重ねてきたパッケージの集大成が期待された。
オートクロス終盤に試したセットが思うような結果を残せなかったことを受け、エンデュランスではさらに調整を加えて挑んだ。この3人をここ数年追い続けてきたが、「これが正解」というセットに落ち着いた姿はほとんど見たことがない。常に路面コンディションとマシンの挙動を見極め、その場で修正を重ねる。その「ああでもない、こうでもない」という試行錯誤こそが、彼らのコミュニケーションであり、互いを鼓舞する時間でもあった。
アウトラップは78秒台と京工繊より慎重な立ち上がりとなったが、その後は安定したラップを刻む。マシンも依然としてリアの軽さは残るものの、バランスは着実に改善されているように見えた。
前半スティントを担当したドライバーは、「昨日オートクロスから内圧とダンパーを調整して出た」「内圧が上がるまではしんどかったが、温まってしまえば走りやすい車にはなった」と振り返る。後半スティントのドライバーも改善を実感しつつ、「乗りやすくはなったが、やはりリアに課題は残っていた」「後半車を受け取ったあと、1,2周はタレを感じなかったが、3周目からは顕著に出てきて最後まで走った」「タイヤがタレたところで、運転をアジャストできなかった」「いつものエンデュランスより少ない周回数だが、やっと安定して走れるところになった」と語る。
最後まで正解を探し続け、対話を重ねながらマシンを仕上げていく。その姿勢はラストランまで変わらなかった。大阪大学らしさが凝縮された締めくくりだった。



そして入念なチェックを終え、比較的遅いタイミングで同志社大学が動的エリアへ姿を現した。この時点で京工繊、大阪大学の結果はすでに見えている。同志社にとっては精神的にも余裕を持って臨める状況となっていた。ドライバー2人も落ち着いた表情を崩さず、チーム全体も淡々と準備を進めていた。
先陣を切ったのはオートクロスでトップタイムを記録したドライバー。京工繊同様、アウトラップから74秒台へ入れると着実にペースを上げ、3周目には72秒台を記録した。京工繊のファステストには届かなかったものの、十分すぎるタイムだった。
「手堅く走ろうと思っていた」「思っていたペースでは走れたと思う」「路面も綺麗で、もう少し攻めれば、沸かせられたかなと思うがチームの方針を優先しました(笑)」
後半スティントでもドライバー交代は落ち着いており、タイヤの性能低下も感じさせない。前半同様にアウトラップから3周目で72秒台を記録し、最後まで安定した走りを披露した。この安定感こそが、今年の同志社大学の強さを象徴していた。チェッカーを受けた瞬間、ドライバーは力強く指を突き上げる。



ここまでチームを率いてきたリーダーは、「大会直前は、思ったタイムが出ずに、殺伐としたミーティングも経験してきたが、予想以上の成果が得られと感じている」「開発する中で、思っていた結果が得られないこともあったが、先輩たちや仲間のサポートがあって、マシンを作り上げることができた」と満面の笑みで大会を締めくくった。
ここ数年は京工繊が主役として大会を牽引してきた。しかし今季は、その背後で着実に力を蓄えた同志社大学が主導権を握る形でシーズン、そして大会を進めた印象を受ける。また、多くの上位チームではコロナ禍以降の学生フォーミュラを支えてきた世代がラストイヤーを迎え、一つの時代の終わりも感じさせた。世代交代を予感させる節目でありながら、極めてハイレベルな攻防が繰り広げられたエンデュランスだった。
1988年生まれ。大学在学中に学生フォーミュラに参加し、卒業後は自動車業界を経験。現在はモータースポーツを主軸とする技術ジャーナリストとして活動する。学生フォーミュラを起点に、競技車両の設計思想や製造の現場、競技を支えるエンジニアの思考を取材・執筆。技術と競技のあいだにある「それを作る人たちの思考」に関心を持ち、現在は国内外のレース車両開発や人へと取材領域を広げている。


